INTERNET magazine 1998年4月号 pp.320-323より抜粋

ネットワーク時代の知的所有権入門

ドメイン名の新しい問題

第37回
インターネットのドメイン名をめぐって

ネットワーク知的所有権研究会


弁理士 松倉秀実
Yoshiyuki Miyashita

弁護士 寺本振透
Teramoto Shinto
http://www.st.rim.or.jp/~terra/


●●●最新の国内の状況
●●●地理的名称に関する扱い
●●●国境を超えたドメインの問題
●●●仲裁するための判断基準
●●●公序良俗に反するドメイン名について
●●●著名や周知の意味って?

 最近、インターネットのドメイン名をめぐるさまざまな紛争が新聞や雑誌でも しばしば紹介されています。このような情勢の中、日本の弁理士会も、この問題 について積極的に提案を行っています。そこで、今回は、寺本振透() が松倉秀実()にさまざまな質問をするという形で、紹介してまいり ます。

●●●最新の国内の状況

て:最近、インターネットのドメイン名をめぐっていろいろと紛争があっ たり提案が出ていたりしているようですね。まずは、日本の弁理士さんたちによ る提案の状況から教えていただけないでしょうか?

ま:弁理士会からJPNICに対して行っている提案があります( http://www.asahinet.or.jp/~gv8h-mtkr/jpnic1.htm)。これには、3つ のポイントがあります。

 第一は、地理的名称、一般名称、公序良俗にかかる用語などは申請時に登録を 拒否して欲しい、ということです。

 第二は、申請されたドメイン名が周知または著名な商標と同一か類似の場合に は、その申請を拒絶して欲しい、ということです。

 第三は、あるドメイン名を取得した人と商標権者との間で争いが生じた場合は、 日本弁護士連合会と弁理士会とで設立を予定している工業所有権仲裁センターで 解決をはかるようにしてほしい、ということです。


●●●地理的名称に関する扱い

て:第一点に質問です。地理的名称そのもの、例えば、osaka.co.jpといっ たドメイン名の申請は拒絶してもらいたいということなのですね?

ま:そのとおりです。誰もが知っている地名については、一私人にその ネーミングを独占させることには不都合が多いと考えられるからです。

て:では、町内会とか地方自治体が地名をドメイン名に使いたいという 場合には、どうお考えでしょうか?

ま:地方自治体そのもののように、明らかにその地名と密接な関係を持っ ている団体がその地名をドメイン名として使うのは構わないのでしょうね。

とはいっても、商標でもよく問題になることですが、SAPPOROは地名ではありま すが、ビール会社の名称として永年知られています。このように既得権があると みられるものは別に考える必要があるでしょうね。

 商標法では、商標は商品・サービスの区分ごとに権利を取得できますが、地理 的名称や公序良俗については、区分は関係なく、つまりどの区分であろうが登録 を認めないという取り扱いがされています。もちろん、商標とドメインは異なる ものですが、URLとして用いられるときに、ユーザーにとって一定の識別を行う 基準になるという意味では商標に準じた扱いをする必要があるかも知れません。

て:では、地名が固有名詞から発生している場合、例えば、四天王寺か ら派生した天王寺とかいうのがありますよね。

 それから、逆に、多くの会社や商店が、1つの地名、例えば、ブロードウェイ トかウォールストリートとかいう名前を自分の名前の一部として用いている例が あります。これらについては、どう扱えばよいでしょうか?

ま:場合によると思います。東京でも泉岳寺というお寺が、都営地下鉄 の泉岳寺駅に対して、泉岳寺という名前を勝手に使うなといって訴訟になったケー スがありました。もちろん、お寺側の主張は通りませんでしたけど。まあこの場 合は、お寺の泉岳寺が誰も地下鉄の駅を経営しているとは思わないでしょうけれ ども、使われ方によって一般ユーザーが誤認する可能性のある地名でしたらやは り問題でしょう。要は、あらかじめ厳しい基準を用意しておいて地名のドメイン 登録を一切認めないか、あるいは最低限の基準にしておいて、ユーザーを惑わす ような使い方をしたらドメインを取り消すようにするかということになるでしょ う。

て:たとえば、大阪市の御堂筋という大通りの下を、地下鉄御堂筋線が 走っています。これを材料に考えてみましょう。

ま:地下鉄に関係ない人、例えば、アダルトものの会社が midousujiunderground.co.jpとかを登録すると困ったことになりますね。何も知 らない人は、地下鉄御堂筋線の情報かと勘違いしてしまいます。

て:なるほど。ところで、現実的には、鉄道ファンの人が、 midousujisubway.co.jpとかを登録したいと思うかも知れません。一方、大阪市 の交通局も御堂筋線の広報用に同じようなドメイン名を使いたいかもしれません。 このようなぶつかり合いがあった場合は、公益性があるほうを優先させるべきだ とお考えでしょうか?

ま:このような状況では、地下鉄御堂筋線そのものについて公的な情報 にアクセスしたい人が多数いると思われます。たとえば、地震が起きたときに、 御堂筋線が走っているかどうかを知るために、midousujisubway.co.jpと入力し たいと考えるのが普通でしょう。そのときに鉄道ファンの方の地下鉄車両蘊蓄の サイトに飛んでしまうと困るかも?

て:なるほど。平時ならそれはそれで当初の目的を忘れて鉄道ファンの サイトに見入ったりしかねませんが。
<==「て」は、実は、人知れず「鉄ちゃん」 であるらしい;-)

ま:私の個人的な意見としては、地理的名称のうち、都道府県市区ぐら いまでは、私人に独占させるべきでないでしょうが、その下の町名や通りの名前 までは厳しくすべきではないでしょうね。

て:私が1994年に取り扱ったケースとして、ある会社が×××.co.jpを すでに登録して使っていたところ、後になって、×××.or.jpが登録されたこと をWHOISで確認したので、混乱を避けるために、そちらの責任者にお願いして、 別のドメイン名に変更していただいたものがあります。そういったことをもっと 組織的にかつ公にして、情報にも簡単にアクセスできるようにしていくとよいの でしょうか?

ま:そうですね。どの人がどのようなドメインを登録または登録しよう としているのかをもっとみんなに分かりやすくするシステムがあっても良いです ね。登録されては困る人がいれば自発的にネット上で異義を述べて、両当事者が 意見を述べあって解決するのも良い方法です(新たなドメインネームシステムと して発足しているgTLDにはWIPO(世界知的所有権機関)でのACP(仲裁)が規定 されています)。


●●●国境を超えたドメインの問題

て:ちょっと横道にそれた質問なんですが、国際司法の石黒教授が強調 しておられるとおり(石黒一憲「ボーダーレス・エコノミーへの法的視座 第七 十九回 サイバースペースにおける国際的著作権侵害--牴触法的考察(上)」日 本関税協会「貿易と関税」1998年1月号130頁)、知的財産権と牴触法との関係が 気になります。ネット上で調停や裁判をしようとするときに、実体法の準拠法、 手続き法の準拠法、あるいは、仲裁のルール、それに執行の問題をどんなふうに 考えていったらいいか、頭が痛いですねえ。

 つまり、アメリカの商標法を適用するのか日本の商標法を適用するのか、また、 アメリカの民事訴訟法なり仲裁法なりを適用するのか日本のそれらを適用するの か、また、なんらかの結論が出たとしてそれを強制するためには結局いずれかの 国の裁判所に持っていかなければならないのですが、たとえば、日本の裁判所が ネットワーク上で行われた裁判(風の手続き?)の結論を強制することを認める ことができるのだろうかとか?

ま:そうですね。ただ、当事者が日本人同士ならばよいですが、外国人 がからんでくるととんでもなく議論が広がっていきますね。

て:この議論は多分もっとも重要なことだと思うのですが、簡単に紹介 して済むことでもないので、また日を改めて徹底的に検討することにしましょう。

ところで、いわゆるgTLDについて少し説明してください。

ま:はい。gTLDというのは世界のインターネット関連組織や法律専門家 組織が集まって、世界的な新しいドメイン秩序を作っていこうということで、新 たな7つのドメイン(firm、shop、web、arts、rec、info、nom)を世界の新し い登録機関を通じて認めていき、その紛争はWIPO(世界知的所有権機関)で扱お うというものです(詳細はhttp://www.gtld-mou.org/を参照してく ださい)。

て:そのgTLDについては、国の区別がないんでしたっけ?

ま:ありません。

て:そうすると、国境を超えて、誰がいちばん著名なんだとか、この国 ではこの言葉は普通名詞とは思われていないけれども、別の国では固有名詞だと 思われるとか、あるいは、ぶどうの産地のように品質表示上大事な意味を持って いるとか、いろんな、法律だけでなくて、文化のぶつかり合いが出てきそうです ね。これらのことも、話し合って解決していかなければならないのですね?

ま:そうですね。gTLDは基本的に無審査です。登録機関は1月20日現在で 世界で88の機関が設定されていますが、これらの登録機関には申請されたドメイ ンを独自に審査する権限はありません。

て:そうすると、これについては先に登録してしまってから、あとで既 存の法律なり私人間の話し合いなりで解決するしかないということですね?

ま:はい。gTLDに登録されるドメイン名への異義申立ては、WIPOに設置 されるACPS (ADMINISTRATIVE CHALLENGE PANEL)に対して行えるようになってい ます。

て:ほかの裁判所や仲裁機関ではだめなのですか?

ま:ここが問題で、gTLDで登録されるドメインに対して文句のある人は、 各国の裁判所に訴えることもできるんです。

て:gTLDの登録を申請するときに、[仲裁契約]をするということなんで しょうか?

ま:はい、申込書のチェックボックスにチェックしてACPSの[仲裁]に服 することに合意するのです。もちろん拒否もできます。ですから、あまり強制力 はないのかも知れません。また、ACPSは、各国での裁判を受ける権利を奪えませ ん。ですから、ACPSの仲裁結果に不服であれば、各国の裁判所に訴えることがで きるのです。つまり、最終的な解決を行う力がともなわないのではないかという 心配があります。


●●●仲裁するための判断基準

て:ところで、日本弁護士連合会と弁理士会で作るであろう仲裁機関は、 仲裁のルールとか、実体判断の基準については、どのように考えておられるので しょうか?

ま:この機関自体は、一般の工業所有権を前提にしています。ですから、 今は話し合いの最中なのですが、一般の工業所有権について判断をしていくため のルールを作るのが先決です。

 ドメイン名に関する紛争については、一般の工業所有権とは別のルールが必要 かもしれませんね。

て:ところで、金融の世界ですと、国際的な大口の契約については、ニュー ヨーク州法やイギリス国法に準拠することがよく行われます。これは、長年、ニュー ヨークとロンドンが金融の中心であったため、判例の蓄積が多く、参考にできる 先例が多く、当事者が安心できる、あるいは、結論が見えるので和解しやすいと いう配慮があるようです。そうしてみると、日本やヨーロッパであまり判例が出 てこないうちにアメリカの連邦裁判所や、州裁判所でいろいろな判例が出てくる と、結局、各国の仲裁機関もそれを参考にしていく傾向が出そうな気もしますね。

ま:そのとおりかも知れませんね。


●●●公序良俗に反するドメイン名について

て:次に、公序良俗にかかわる用語についての質問に参ります。

 銀行、証券会社、特許事務所とか法律事務所とか、公益にかかわる名前があり ますよね。これらは、従来の法律でも、各業法で使用制限をしていますが、同じ ような考え方をドメイン名にも適用すべきだということが1つありまよね。

ま:はい。

て:それからもう1つ。たとえば、正確な医療情報を流していると見え るようなドメイン名、たとえば、aids.gr.jpとかで、不まじめな情報が流される と困りますが、このへんは、申請時にはなかなか分からないですよね?

ま:要するに言葉そのものがわいせつだという場合と、言葉そのものは 問題なくても、使われ方によってわいせつになるという場合とでは異なると思い ます。たとえばaidsそのものは公序良俗に反する名前ではないでしょうが、rape は微妙でしょうね。

て:でも、そのような被害にあった方を扶助するためのセンターがそう いう名前を使うのは正当なのでは?

ま:そうですね。使用目的によって判断も違ってくるかも知れませんね。 でも、レイプの被害者救済センターだったら、レイプセンターとするよりもレイ プ救済センターとするのが普通では?ここらは議論が出てくるでしょうが、やは り現在の日本ではレイプという言葉に対する一般の嫌悪感が強いので、やはりこ の言葉は避けたほうがよいのかもしれません。

て:なるほど。目的が正当かどうかにかかわりなく、URLとしてそのよう な用語を見るのが嫌な人が多いかも知れないことを考えて、新聞が、「乱暴」と いう言葉を使うように、機械的かつ一律に排除するということなのですね。

ま:最低限の機械的な排除ということでしょうね。

 で、この点については、ドメイン名登録などに関する規則( http://www.nic.ad.jp/jpnic/domain/rule.html ;公開:1997年12月1日、 実施:1998年3月1日)の第10条では「登録申請にかかるドメイン名が明白かつ現 実的に社会的許容性を欠く文字列を含む場合、そのドメイン名の登録をしないこ とがある」との基準が規定されています。


●●●著名や周知の意味って?

て:ところで、個人的な話になりますが、地球を意味するterraを独占す るのはいかんのかなあ?

ま:この分野では、terraを誰も地球の制服者とは思わないから別にいい んじゃないの。でも、隠れて地球制服を企んでるでしょ?

て:えへへ...(^^;;;;

て:第二点について、続けて質問いたします。ここで、著名とか周知と かいうのは、具体的にはどのような意味でしょうか?

ま:「著名」というのは、誰が見ても特定の企業と関連があると思われ るほど有名なネーミングまたはマークです。

て:すると、オムロンとか、ワコールとか、サントリーとか、京セラと か?

ま:そうですね。

て:これは、どこに暮らしているどんな人から見て、ということでしょ うか?

ま:日本に住んでいる平均的な人なら、どの分野の人でも知っていると いうのが基準です。

て:すると、自動車でいうと、「ポルシェ」といえば、車マニアでない 人でもまず知っていますから、著名と考えるんですね?

ま:はい。

て:たとえば、ある会社が、その会社の一般的なブランド名とは別のブ ランド名を高級品に付けて広めた場合、そのブランド名自体は有名だし信用を得 ますよね。でも、一般人はどこか特定のところが作っているらしいんだけどそれ が誰かはよく認識していないということがありますよね?これでも、著名の概念 には当たるわけですか?

ま:そうです。たとえば、用途によってブランドを変えている会社はた くさんあります。サニタリー分野ではTOTOが有名ですが、食器になりますと NORITAKEブランドで、どちらも有名です。要するに特定されていなくても一定の 出所として一般人に認識されているブランドであれば良いわけです。

て:では、三菱グループと、三菱鉛筆のように、関係がないけれど、ど ちらも結構有名という場合は、話し合いにまかせるしかないんでしょうか?

ま:そうですね。

て:「周知」のほうは、どう定義するんでしょうか?

ま:周知というのは、「一定の業務範囲」では非常に有名なものを指し ます。

て:たとえば、「ウニモグ」というダイムラー・ベンツ社の多目的四輪 駆動車のブランドがありますね。ご存じですか?

ま:いや、寡聞にして知りませんでした。

て:「ウニモグ」は、鉱業とか、林業とか、防災関係では超有名です。 けれども、一般の人は、「メルセデス・ベンツ」は知っていても「ウニモグ」は 知らないことが多いですよね。「周知」とは、こういうことでしょうか?

ま:そのとおりです。

て:ところで、まったく話は変わりますが、LINUXで動くゲームソフトで、 XBILLというのがあるんですが、ご存じでしょうか?

ま:いいえ知りません。

て:それは残念。めがねをかけた人がOS/2やAPPLEやSOLARISの入ったコ ンピュータにVIRUSを感染させようとするので、めがねをかけた人をマウスでク リックしてやっつける、一種のモグラたたきゲームです。

ま:それはおもしろいですね。

て:ところで、BILLといえば、PC業界では、やはりめがねをかけたあの お方のことですよね。XBILLの愛好者の集まりが、xbill.gr.jpとかを登録するの は、あのお方からすると、排除したいかもしれませんね?

ま:ただ、この程度では、他人を誹謗中傷したことにはならないでしょ うね。たとえば、そのお方のfamily nameのほうだとあぶないかも。

て:xshinto.gr.jpなんかもまずい?

ま:それはかえって本人が喜ぶだけだから、そんなに調子に乗せるのは やめときませう;-p


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