INTERNET magazine 1998年2月号 pp.334-337より抜粋

ネットワーク時代の知的所有権入門

新しい著作権法について

第35回
著作権法が変わる?!・・・著作権法改正のポイントと実務への影響

ネットワーク知的所有権研究会


弁護士 宮下佳之
Yoshiyuki Miyashita


●●●1.改正法のポイント その1-
   インタラクティブ送信に関する権利の明確化
A.改正前の状況
B.改正法の概要
●●●2.改正法のポイント その2-
   コンピュータプログラムに関する特例
A.改正前の状況
B.改正法の概要
●●●3.改正法による実質的な権利範囲の変動の有無
●●●4.実務に及ぼす実際上の影響
A.海外サーバーを利用したビジネスに対する影響
B.実演家やレコード製作者の対応
C.コンピュータソフトウェアのベンダーの対応
●●●5.今後の著作権法の動向
A.著作権法関係の今後の改正項目
B.データベース保護に関する立法化

 今年(1997年)の6月に著作権法が改正され、来年(1998年)1月1日か ら施行されることになりました。今回の改正は、インターネットによるインタラ クティブな送受信が一般化したことに伴うものであると言われていますので、イ ンターネットマガジンの読者の皆さんにも多少なりとも影響があるかもしれませ ん。そこで、本号では改正法の概要をご説明して、改正法の実務への影響につい て考えてみましょう。

●●●1.改正法のポイント その1-
インタラクティブ送信に関する権利の明確化


A.改正前の状況

 「著作権」はいろいろな権利の束であると言われていますが、著作物を送受信 する場合には、そのうち、下記の権利が関係するものと考えられていました。

◆複製物ができる場合には、複製権
◆公衆によって直接受信することを目的として無線通信の送信を行う場合には、 放送権
◆公衆によって直接受信されることを目的として有線電気通信の送信を行う場合 には、有線送信権
(ただし、そのうち、同一の内容が同時に受信されることを目的として行う場合 には、有線送信権)

 これらの権利の関係は、おおよそ【表1】のようにな ります。

 さて、WWWを通じた送受信は、基本的には受信者側のリクエスト(ここで言う 「リクエスト」には、Webページへのアクセスを含みます)があった場合に実際 に行われることになるので、テレビやラジオのように「同一の内容が同時に受信 される」わけではありません。したがって、WWWを通じた送受信は、「同一の内 容が同時に受信される」ことを要件とする「有線放送」には該当しません。WWW を通じた著作物の送受信は、有線電気通信の送信による場合には、「有線放送以 外の有線送信」に該当することになります。それでは、無線通信の送信の場合に は、どうなのでしょうか。今回の改正前の著作権法の「放送」の定義を見ると、 「同一内容が同時に受信される」ことは要件とされていないので、WWWを通じた 送受信のうち、無線通信の送信は「放送」に該当することになりそうです。しか し、「放送」というと、日常用語としては、やはりテレビ放送やラジオ放送のよ うに「同一内容が同時に受信される」場合を思い浮かべますから、WWWを通じた 無線通信の送受信が「放送」であると考えることには、おそらく多くの人が違和 感を覚えるのではないでしょうか。


B.改正法の概要

 改正法では、上記のような問題点を勘案して、「送信」に関する権利を整理し ました[1]具体的には、有線であろうと無線であろうと公衆に対する送信を「公 衆送信」と定義し、「公衆送信」に対して著作権が及ぶことにしました。そして、 「公衆送信」のうち、「同一内容を同時に無線で送信する場合」を「放送」、 「同一内容を同時に有線で送信する場合」を「有線放送」と定義し、WWWのよう なインタラクティブな送受信を「自動公衆送信」と定義したのです。そして、 「自動公衆送信」とされるようにすることを「送信可能化」と定義して、著作権 者だけでなく、実演家やレコード製作者も、勝手に「送信可能化」されない権利、 すなわち「送信可能化権」を有するものと規定しました。

 これらの権利の関係を整理すると、おおよそ【表2】 のようになるものと思われます。

【表1】

  無線 有線
公衆が同一内容を同時に受信 放送権 有線放送権
上記以外の場合   有線送信権

【表2】

  無線 有線
公衆が同一内容を同時に受信 公衆送信権のうち、放送権 公衆送信権のうち、有線放送権
公衆からの求めに応じ自動的に送信 [2] 公衆送信権のうち、自動公衆送信権
(自動公衆送信し得るようにすることについては、送信可能化権)
上記以外の場合 公衆送信権 公衆送信権

●●●2.改正法のポイント その2-
コンピュータプログラムに関する特例


A.改正前の状況

 今回の著作権法の改正前の「有線送信」の定義をよく見ると、「『同一の構内』 における送信は、『有線送信』に該当しない」と書いてあります。仮に、LAN環 境の複数の端末上で、サーバーにインストールしてあるコンピュータプログラム を読み込んで稼働させることが「送信」であるとすると、LANが「同一の構内」 で構築されている場合には、「有線送信」は行われていないことになります。そ うすると、スタンドアローン用のコンピュータプログラムを買ってきてサーバー にインストールして、何百台、何千台の端末上で稼働させたとしても、それらの 端末が同一の構内のものである場合には、「有線送信権」は侵害していないとい うことになってしまいます。そうした取り扱いに対しては、多方面から批判され ていました。

B.改正法の概要

 改正法では、「公衆送信」の定義の中で、「同一の構内における送信は、原則 として『公衆送信』に該当しないが、コンピュータプログラムの場合には、同一 の構内における送信であっても、『公衆送信』に該当する」という趣旨のことが 規定されています。その結果、スタンドアローン用のコンピュータプログラムを 買ってきてサーバーにインストールして、複数の端末上で稼働させる場合には、 すべての端末が同一の構内のものであっても、「公衆送信権」の侵害を構成し得 ることになります。

●●●3.改正法による実質的な権利範囲の変動の有無

 さて、今回の改正法は送信に関する権利の公正を相当変更したものではありま すが、以下の理由から、権利者の権利範囲を実質的に変更するものではないとも 考えられます。

 まず、インタラクティブ送信に関する「自動公衆送受信」の概念を導入した点 ですが、従来の名称と分類を変えただけなので、著作権の実際の権利範囲に変動 を及ぼすものではないと思われます。

 次に、「送信可能化権」を導入した点ですが、ほとんどの場合、「送信可能化」 は、複製を伴うので、「送信可能化」に該当する行為が行われた場合には、改正 前の著作権法の下でも、著作権者の「複製権」、実演家の「録音権」、レコード 製作者の「複製権」が問題となるものと考えられます。その意味では、権利者の 権利範囲を実質的に大きく変更するものではないと考えられます(ただし、リア ルタイムで実演を送信する場合には、複製を伴わないとも考えられるので、その 限度で実演家やレコード製作者の権利が拡張されたと言えるかも知れません)。

 コンピュータプログラムに関する特例を定めた点に関して及ぼすものではない と考えられます。先ほど例にあげた、「スタンドアローン用のコンピュータプロ グラムを買ってきてサーバーにインストールする場合」をもう一度考えてみましょ う。この場合には、サーバーにインストールした段階で、コンピュータプログラ ムの複製が行われることになり、スタンドアローン用のものをサーバーにインス トールすれば、その段階で、許諾の範囲を超えた複製行為が行われ、複製権の侵 害が問題となりうることになります。また、ソフトウェアベンダー等は、従来か ら、「サーバーから端末にソフトウェアを読み込めば、ソフトウェアがRAM上に 複製されることになるから、端末にソフトウェアを読み込んだ段階で複製権の侵 害になる」と主張しており、欧米の著作権法上も、同様に考えられています。こ の考え方によれば、「同一の構内」に関して特例を定めなくても不都合はないと いうことになります。ただし、日本では「コンピュータプログラムを読み出して、 RAM上に蓄積するのは、瞬間的過渡的な複製であるので、著作権法上の複製では ない。これが複製であるとすると、使用権を認めることになり、不適当である [3]」との有力説もあり、この有力説によると、コン ピュータプログラムに関する特例を定めたことにより、コンピュータプログラム に関する著作権の権利範囲は拡大されたということになろうかと思われます。


●●●4.実務に及ぼす実際上の影響

 改正法は、権利範囲に実質的な変動を及ぼすものではないと考え得るのですが、 下記のような実際上の影響があるかも知れません。

A.海外サーバーを利用したビジネスに対する影響

 改正前の著作権法上は、「海外のサーバーからの著作物の配信は、日本の著作 権法の問題とはならない」と言いやすい状況にありました。なぜなら、(a)複製 物は海外のサーバー上でできるから、日本の著作権法上の複製権侵害は問題とな らない、(b)著作物の配信は海外のサーバーから行われるのであるから、有線送 信も海外で行われるのであるから、有線送信も海外で行われていると見るべきで ある[4]というような主張が可能であったからです。 ところが、改正法は、「送信可能化」という概念を導入しましたので、「日本か ら、海外のサーバーへ著作物をアップロードする行為は『送信可能化』である。 アップロードは日本で行われているんだから、『送信可能化』は日本で行われて いる。だから、日本の送信可能化権の侵害が問題になりうる」というような議論 が可能になりました。そのため、海外サーバーを利用したビジネスを実施してい る事業者に対して、権利者団体が、送信可能化権の侵害を根拠にクレームをつけ てくる余地があるように思われます。もっとも、海外サーバーを利用してビジネ スを行っている事業者が、サーバー所在地国の権利者団体の許諾を得ている場合 には、「海外サーバーへの著作物の蓄積については、すでに権利者の許諾を得て いるのであるから、同一の行為に対して、再度許諾を受ける必要はない」との反 論が可能であると思われるので、実際に海外サーバーを利用したビジネスに何ら かの影響が生じるか否かは、定かではありません。

B.実演家やレコード製作者の対応

 改正前の著作権法上は、「実演家やレコード製作者は、『有線送信』に関して、 権利がない」と考えられていたので録音権や複製権があるとはいえ、ネットワー ク上での実演やレコードの利用に対して、権利主張をしにくい面があったかもし れません。改正法施行後は、「送信可能化権」が認められたので、従来よりも権 利主張はしやすくなったものと思われます。場合によっては、積極的にネットワー ク上での実演やレコードの利用に対して、実演家やレコード製作者として、権利 主張をしてくる可能性があります。

C.コンピュータソフトウェアのベンダーの対応

 コンピュータプログラムのネットワーク上での利用に関しては、すでに説明し たように、「RAM上への蓄積は、複製ではない」という有力説があった関係で、 コンピュータソフトウェアのベンダーは、LAN環境下でのソフトウェアの利用に 対して、著作権侵害を主張しにくい面がありました。しかし、改正法施行後は、 少なくとも「公衆送信権」の侵害を主張を容易にできるようになりましたから、 LAN環境下でソフトウェアを利用している企業に対して、積極的に権利主張をし てくる可能性があります。

●●●5.今後の著作権法の動向


A.著作権法関係の今後の改正項目

 今回の著作権法改正は、今後予定されている改正項目のごく一部でしかありま せん。1996年12月に採択された「WIPO著作権条約」[5]には下記のようなことが 定められており、日本でもその対応を検討中なのです。

1.加盟国は、コピープロテクト解除装置等に対する対策を定めなければならない。
2.加盟国は、電子的権利管理情報を除去したり改変したりする行為から権利者を 法的に保護するようにしなければならない[6]

 また、1996年の12月には、「WIPO実演・レコード条約」 [7]という条約も採択 されたのですが、この条約上、加盟国は実演家の人格権を定めるべきだというこ とが規定されています。今後そのための改正も必要であると考えられています。

 さらに、著作物の利用許諾の円滑化を図るため、権利の集中的処理のあり方に 対する検討も進められています。


B.データベース保護に関する立法化

 「データベースから相当部分のデータを抽出する行為は、抽出されたデータが 著作権で保護されるようなものでなくとも、制限されるべきだ。データベース開 発に対する投資を保護するために、特別の権利を認めるべきだ」ということが主 張されており、EUでは、「各国は、そのために国内法を整備せよ」という理事会 指令というものが出されています。そのため、EUでは、各国で、立法化が進めら れている状況にあります[8]。日本は、「EUのように特別な権利を認めるべきな のか。不正競争防止法を改正することによって対応すべきではないのか。そもそ も立法的解決が必要なのか」などの議論が行われている状況です。

 上記のように、現在、著作権法に関してはたくさんの難問があり、著作権法関 連の立法の動向からは、今後も目を離せないようです。


脚注

[1]今回の改正は、1996年12月に採択されたWIPO著作 権条約に基づくものでもあります。この条約では、「加盟国は、著作者が、公衆 への伝達権("right of communication to the public")を有することを明らかに すべきだ」ということが規定されており、日本は、この「公衆への伝達権」を 「公衆送信権」と呼ぶことにしたしたわけです。

[2]いわゆる「プッシュ型」送信が、「公衆からの求 めに応じた自動的な送信」、すなわち「自動公衆送信」と言えるかどうかは、若 干問題があります。しかし、現状での「プッシュ型」送信のほとんどは、あらか じめ利用者が登録をしたコンテンツを端末から読み込んでくるものなので、「公 衆からの(あらかじめ登録された内容に従った)求めに応じた自動的な送信」で あり、「自動公衆送信」に該当すると考えてよいだろうと思います。

[3]個人的には、この考え方には、かなり疑問があり ます。RAM上での蓄積を「複製」ではないというのは、実際のRAM上での蓄積形態 からして、かなり無理があるように思われます。また、ソフトウェアの利用の過 程で、仮想メモリーとしてハードディスクが利用されることや利用者がRAM上で の蓄積かハードディスクへの蓄積かをあまり意識していないこと等から考えると、 RAM上での蓄積かどうかを判断基準とするのはあまり合理性がないようにも思わ れます。さらに、今後「ペイ・パー・ビュー」や「ペイ・パー・ユース」の形態 での利用が広がっていくことや国際的な調和の必要性を考えると、「複製」概念 を限定的に解釈するのは妥当ではないと考えています。

[4]これに対しては、「海外サーバーへのアップロー ド行為は、『公衆によって直接受信することを目的』とした『送信』だから「有 線送信』であり、アップロード行為が日本で行われている以上、日本の著作権法 上の『有線送信権』の侵害になりうる」との意見もありました。

[5]採択はされたものの、ほとんどの国は未だに加盟 していないようです。日本も、まだこの条約を批准していません。

[6]ほとんどの人は、コピープロテクト解除装置等の 販売によって、権利者が相当の損害を被っており、何らかの対策が必要であるこ とは認識しているものの、どのようにして、規制対象品を特定するかという点で、 議論が膠着状態にあるようです。コンピュータはすべてコピープロテクト解除装 置とも言えるわけですが、コンピュータのような汎用的なものも規制対象とする のは、確かに行き過ぎであろうと思われます。

[7]この条約も、WIPO著作権条約と同様に、ほとんど の国が未だ加盟していません。日本も、まだ、批准していません。

[8]一方、日本や米国では、不正競争防止法的な考え 方で対応する方向で検討が進められているようです。


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