INTERNET magazine 1997年11月号 pp.368-369より抜粋
ネットワーク時代の知的所有権入門
商売で頭を痛めることあれこれ
第32回
ネットワークを通じて報酬を支払う場合の源泉徴収の扱いについて
- 5.3 管理業者の責任
- 5.3.1 商法23条類推責任
- 5.3.2 報償責任
- ●●●6.モールの管理業者が取るべき措置
- (1)加盟店の選別
- (2)加盟店の表示画面における営業主体の明示
- (3)管理業者の表示画面における警告
- (4)出店契約において加盟店に対する求償権を規定すること
- ●●●7.まとめ
- Q.
- A.
まずは、先月号からの続きです。今回で終了ですので今しばらくおつき合いくだ
さい(編集部中:原稿中のナンバーリングは先月からの続きです)。
5.3 管理業者の責任
5.3.1 商法23条類推責任
モールの管理業者が加盟店の行った販売行為から生じた拡大損害について責任
を負うとすれば、最判(最高裁判決)の事例と同様に商法23条類推責任による可
能性が高いと考えられます。
最高裁の考え方からすると、
1)顧客一般のユーザーが、加盟店の営業主体がモールの運営主体たる管理業者で
あると誤認するのもやむを得ないような外観が存在し、
2)管理業者画素の外観を作り出し、または作出に関与した場合
には、管理業者は、商法23条類推適用により、買物客と加盟店の取引に関して
名板貸人と同様の責任を負わなければならないことになります。
モールにおける営業主体の誤認を与える外観がどのようなものかは、具体的な
事例により異なりますが、外観が認められやすい例としては、管理業者の表示が
各加盟店の表示画面に接続したときに表示される画面(以下"表示画面")のフ
レームにずっと表示されているような場合が考えられます。
ただ、どのような表示画面であれば、「外観」が存在するといえるかについて
は、一律に判断することはできません。第三者が営業主体を混同する「外観」が
存在するといえるかどうかは、管理業者および加盟店の運営主体の資本、知名度、
および社会的信用の相関関係によって大きく異なります。たとえば、加盟店が高
品質な食料品を売ることで名を馳せたデパートの食品部や食料品店であれば、表
示画面の枠外に管理業者の商標やサービスマークが表示されていたとしても、当
然には営業主体を管理業者であると誤認する外観が存在するということにはなら
ないでしょう。逆に、管理業者が知名度が高く社会的信用がある業者であり、加
盟店があまり有名ではない業者の場合は、一般人が管理業者が営業主体であると
誤認する外観が存在すると認められやすいといえるでしょう。
5.3.2 報償責任
前述のように管理業者の責任としては、報償責任の法理による責任も考えられ
ます。ただし、報償責任による場合は、管理業者の責任を問う顧客が具体的にど
の条文を根拠に管理業者に損害賠償を請求するかについては、請求の構成が非常
に難しい問題となるでしょう。報償責任を具体化した規定は民法715条の使用者
責任の規定ですが、管理業者が加盟店の「使用者」とまではいえない事例がほと
んどではないでしょうか。これは私見ですが、顧客の請求の構成は、管理業者に
加盟店を管理する契約ないし信義則上の義務があるということを前提に、管理業
者の加盟店管理義務違反による民法709条の不法行為に基づくことになる場合が
多いのではないかと考えます。
報償責任の法理に基づく請求の場合も、管理業者に責任が認められるかどうか
は事例の具体的内容により異なりますから、一律に判断することはできません。
●●●6.モールの管理業者が取るべき措置
(1)加盟店の選別
やみくもにたくさんの加盟店をモールに入れたとしても、モール全体として何
らかの特色がない限り、物は売れないでしょう。加盟店として出店する店は、社
会的信用があり、何らかの特徴のある商品を持っていて、しっかりした経営をし
ている業者にするべきです。いい加減な仕事をする業者を出店させないことが最
高の対策といえるでしょう。
(2)加盟店の表示画面における営業主体の明示
商法23条類推責任を回避するために、管理業者は、加盟店に対し、出店契約に
おいて営業主体、本店所在地、クレーム受付の窓口になる営業所などの連絡先な
どを一定以上のポイント数で明示させることを義務づけるべきです。
(3)管理業者の表示画面における警告
同様に、モール最初の管理業者の表示画面においても、取引をする主体となる
のは個別の加盟店であり、管理業者が個別の取引から生じた損害などに関する責
任を負わないことを明示すべきです。たとえば、最初の画面から品物欄をクリッ
クしたら、必ずこの警告画面が出るようにするなどの方法も考えられます。
(4)出店契約において加盟店に対する求償権を規定すること
管理業者が商法23条類推などにより加盟店の債務不履行に起因する顧客の損害
を賠償した場合に、加盟店に対してその求償をするために、管理業者は加盟店と
の出店契約において、"管理業者が加盟店の取引行為に起因して第三者から損害
賠償の請求を受け、損害を賠償したときは、加盟店は管理業者の損害を補填する
義務を負う"旨を規定すべきです。
●●●7.まとめ
ネット上での物品の販売、およびモールを開設して他の業者をサーバーに入れ
ての販売を行う場合の注意店は以上のとおりです。モールを開設しての販売につ
いては、誌面の都合で十分な説明ができていない部分もありますが、どのような
危険があるかということを認識することが法的なリスクを考える第一歩です。法
的なリスクを承知したうえで、インターネットの特徴をフルに生かしてご商売に
励んでください。
●
さて、ここからは寺本先生にバトンタッチして今月のテーマについてお話しし
ていただきましょう。
●
ショッピングモールに限らず、ネットワーク上で商売をするとなると、フェイ
ス・トゥ・フェイスの世界を前提として構築されてきた税務をどうあてはめたら
いいものやら頭を痛めることになる。そこで、いくつかの税務上の疑問をあげ、
それにどう対処したらよいか考えてみよう。残念ながら、きちんとした答えをま
だ出せないものも多い。せめて、考え方の筋道だけでも何とかしてつけてみよう。
Q.
私は、インターネット上で毎週編集された数編の記事を購読者に送信する、いわ
ばインターネット週刊誌とでもいうべきビジネスをしている。ネットを通じた寄
稿の提案も多くなってきたので、優れた記事については採用して購読者に送信す
る一方で、寄稿者には原稿料をお支払いするつもりでいる。さて、原稿料を払う
ときには源泉徴収をすると聞いたが、寄稿者がどこの誰かに関わらず、同じ扱い
で良いのか?また、寄稿者がどこの誰だかわからないときはどうすればよいのか?
A.
・まず、インターネット週刊誌を発行するビジネスを行っているのは、日本国内
の法人(株式会社とか有限会社とか。以下、"ネット誌出版社"と呼ぶことにし
よう)だと仮定しておこう。
・次に、寄稿者が、日本法人の個人であり、それが誰だか分かっているとしよう。
○所得税法204条1項は、次のとおり定める。
居住者に対し国内において次に掲げる報酬若しくは料金、契約金、又は賞金の支
払をする者は、その支払の際、その報酬若しくは料金、契約金又は賞金について
所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付し
なければならない。
一.原稿、さし絵、作曲、レコード吹き込み又はデザインの報酬、放送謝金、著
作権(著作隣接権を含む。)又は工業所有権の使用料および講演料ならびにこれ
らに類するもので政令で定める報酬又は料金
…以下略。
○ところで、"居住者"とは、"国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて一
年以上居所を有する個人"のことをいう(所得税法2条1項3号)。
・というわけで、ネット誌出版者は、日本国内の個人である寄稿者に対して原稿
料を支払う際には、所得税を源泉徴収して、翌月10日までに国に収めなければな
らない。支払い方法や支払い期日には特例があったりして複雑だが、ここでは原
則のみ述べる。また、支払い調書の作成とか事務的な問題も、とりあえずスキッ
プしてしまおう。まずは、全体の概要をながめておくほうがよい。その上で、税
理士や会計士の先生にお願い-アウトソーシング-すればよい。
・税率は10%、ただし、一回に1人の寄稿者に対して100万円を超える原稿料を
支払うならば(普通そんなことはないだろうが:-p)100万円超の部分については
200万円だ(所得税法205条1号)。
○もし、原稿料が10万円ならば、1万円(=10万円×1%)を源泉徴収して、残り9
万円を寄稿者に支払うことになる。
○もし、原稿料が110万円ならば、12万円(=100万円×10%-10万円×20%)を
源泉徴収して、残り98万円を寄稿者に支払うことになる。
○消費税額の取扱をどうするかが、多少頭が痛いところではある。しかし、両者
を明確に区分して、本体10万円、消費税額5000円と明示した伝票を出して支払う
ならば、1万円のみ源泉徴収するのが一般的なやり方だ。理論的には整合性が取
れないきらいがあるが、それで通用している。
■では、寄稿者が、日本国内の法人(株式会社、有限会社、財団法人など)なら
ばどうだろうか?
○まず、先に掲げた所得税法204条1項は、個人に対して支払をするときのみの規
定だから関係ない。
○日本国内の法人に対する支払をする場合の源泉徴収に関しては所得税法212条
に規定がある。が、この規定が対象とする支払の中には、原稿料が含まれていな
い。だから、ネット誌出版社は源泉徴収をしなくてもよい。原稿料が10万円なら
ば、それをまるのまま、寄稿者に対して支払えばよい。
○問題なのは、いわゆるSOHOの隆盛に伴い、ネット誌出版社からすると、個人な
のか法人として活動しているのかはっきり見極めがつかない場合が多くなりつつ
あることである。とりわけ、もともとは1人で活動していたライターが、成長に
伴って従業員や共同作業者を求めて法人となっていった場合、法人の名前よりも
個人の名前のほうが有名だから、法人の著作物であり、法人が出版許諾を行う場
合であっても法人の"事実上の"商標として個人名を用いることが普通である。
○ネット誌出版者としても、する必要のない源泉徴収をして余計な事務を増やし
たり、寄稿者に対して本来支払われるべき額より少ない支払をしてしまうエラー
をするのを避けるため、事前にひとこと寄稿に問い合わせをしておきたいところ
だ。
■SOHOといっても、法人化しておらず、事実上の個人の集まり、あるいは、民法
上の組合(民法667条)である場合はどうだろうか?
○日本の場合、所得税は、個人または法人(あと、みなし法人というのもある。
所得税法4条)は納税義務を負うが、そうでない事実上の団体または民法上の組
合は、単あるトンネルとして扱われる。つまり、これらの集まりを構成する個々
人のみを税務上は認識することにしている。
○そこで、個人の集まりならば、それを構成している個々人が寄稿者であると考
えて源泉徴収を行い、法人の集まりならば、寄稿者が法人だと考えて源泉徴収を
しないのが一般的なやり方のようである。
○たとえば、この記事なども、複数の個人が寄り集まって設立した民法上の組合
である法律事務所が書いているから、インプレスは我々に対して原稿料の支払を
する際に所得税の源泉徴収をしているわけだ。筆者の名前として法律事務所名を
書かないで、その記事の主任担当者である個々の弁護士の名前を出す理由は、商
業誌に事務所名を出すのが弁護士会の広告規制にてらしてあまり好ましくないの
ではないか?という配慮もあってのことだ。
○今後、SOHOは、一時的なプロジェクトゆえ法人化せず民法上の組合として立ち
上げられるものがあったり、税務上最も有利な形態を狙って組合と法人とを適宜
選択するものが現れたりするだろうから、だんだんややこしくなってくるかも知
れない。
■寄稿者が外国の個人だったらどうだろうか?
○所得税法では、"居住者以外の個人"のことを"非居住者"と呼んでいる(所
得税法2条1項5号)。外国の個人ということは、"非居住者"と考えてまず間違
いないだろう。
○非居住者に対し国内において著作権の使用料の支払をする者は、源泉徴収をし
なければならない(所得税法212条1項、161条7号)。
○問題は、税率だ。所得税法213条1項1号では、いちおう、20%となっているのだ
が、それが、各国との租税条約によってしばしば低減されている。寄稿ほうがア
メリカの居住者ならば10%(日米租税条約14条2項)だし、韓国なら12%(日刊租
税条約11条1項)といった具合だ。もっとも、こうした租税条約による軽減税率
の適用を受けるためには、寄稿者の方でネット誌出版者を通じて届出をしなけれ
ばならない(租税条約の実施に伴う所得税法、法人税法および地方税法の特例等
に関する法律の施工に関する省令2条)のだが、いろんな国からの寄稿を採用し
てやっていくとすれば、ネット誌出版者はとてもとても対応しきれないだろう。
軽減税率をあきらめてもらうのが関の山である。
■寄稿者が外国の法人だったら?
○寄稿者が法人であったとしても、外国法人ならば、源泉徴収をしなければなら
ない(所得税法212条1項、161条7号)。
○この場合、寄稿者が外国の個人である場合と同じ問題が生ずる。その代わり、
外国のパートナーシップ(partnership)と称する団体が法人格があるのかない
のかなんてことはあまり気にしなくてもよさそうではある。
さて、いわゆる電子マネーで支払ができてしまうとすると、寄稿者は自分がど
この誰で法人か個人かPartnershipかなんてことを明らかにしないまま寄稿がで
きるし、ネット誌出版社も単に電子マネーを送信すればそれで支払ができてしま
う。が、相手がどこの誰で法人格は?とかいった情報が知れないと、源泉徴収が
できないのではないか?さあ困った。ネット上の取引に対応できない源泉徴収制
度なんてものはやめてしまえ、と乱暴なことをいってしまうか、それとも、でき
る範囲で徴収すればよろしい、と微温的な解決をするか、あるいは、各国共同し
て完璧な徴税システムを構築するのか?頭が痛い。
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