INTERNET magazine 1997年6月号 pp.332 - 335

ネットワーク時代の知的所有権入門
これからのサイバースペースビジネス

第28回
インターネットのホームページに表示されるネーミングの問題

ネットワーク知的所有権研究会

弁理士 松倉秀実
Hidemi Matsukura


  1. ●●●ごぶさたの間にしていたこと
  2. ●●●ホームページで使う他人のネーミング
  3. ●●●たまごっちホームページ事件
  4. ●●●アップルロゴマーク使用許諾の例
  5. ●●●ホームページのネーミングと他人の商標との関係
  6. ●●●プレイメン事件にみる越境データによる商標権侵害
  7. ●●●おわりに

●●●ごぶさたの間にしていたこと

ひさびさ登場の私です。思い起こせばここに登場するのは半年ぶりですねぇ。 その間、私は仕事の合間に、「たまごっちの知的財産」なんてコラムを某新聞 に書いてみたり、「看護婦さんのためのインターネット入門講座」なんて楽し い講演企画を立てていたのでした。さて、そろそろ本題に入らないと怒られて しまいますね。

●●●ホームページで使う他人のネーミング

インターネットにホームページを持つと、ホームページをセンスよく飾りた くなるのが人情です。私のホームページ ( http://www.asahi-net.or.jp/~gv8h-mtkr)も3月初めに4万アクセスを記録し て、あちこちから「リンクしてくれぇ」と声がかかるようになってきました。 思い起こせばホームページを作ってから1ヶ月くらいまでは誰もアクセスして くれなくて、自分でリロードボタンを連打してはカウンターの数字を上げてい たものでした。

さて、ホームページにアクセスしてまず目に飛び込んでくるのはそのホーム ページのタイトルですね。一般的にはHidemi Matsukura Home Page なんて書き込んでおけば、これを見た人のブックマークには「Hidemi Matsukura Home Page」として登録されるわけです。また、タイトルのロゴを 画像データで表示することも多いですね。

ところで、このホームページのタイトルはどのようなタイトルにしようが開 設者の自由なわけです。たとえばたまごっちが好きな人が「たまごっち」とい うタイトルのホームページを開くことも出来ます。現にヤフーを使って「たま ごっち」を検索すると、20以上のホームページがリストアップされます。この 中の大半は「たまごっち」の発売元であるバンダイ株式会社から許可を得てい ない個人のホームページだといえます。さて、それじゃ「たまごっち」という ネーミングをホームページ上で使うことに何か問題はあるのでしょうか?また、 メーカー側はこれをどのように見ているのでしょうか?


●●●たまごっちホームページ事件

この事件は「またごっち」をテーマにした個人のホームページに対して、メー カー側がネーミングの希釈化(みんなに使われてそのアイデンティティーが低 下してしまうこと)を恐れて取った措置としての先例になりました。

さて、この事件についてわがインプレスのインターネットウォッチ(1997年 2月14日)は下記のように報道しています。誤解がないといけないので当該記事 の全文を以下に示します。


●全文記事(1997年2月14日付インターネットウォッチより転載)

バンダイが「たまごっち」に関する個人ホームページに対し広告削除を要求

http://home.highway.or.jp/kazuyan1/
http://www.bandai.co.jp/

今話題の「たまごっち」が物議を醸している。ことの怒りは、個人ホームペー ジの「たまごっち」をテーマにした1コーナーに対し、発売元である株式会社 バンダイがクレームを付けたことに始まる。

同社によると「たまごっち」という名称とそのデザイン等が、営利目的で利 用されたのが問題となったのだという。つまり、新聞や雑誌の1コーナーとし て「たまごっち」を取り上げるのは問題ではないが、「たまごっち」という名 称を用いて、それをテーマにした雑誌や単行本を作るのは問題であるというこ とだ。

今回のクレームの対象となったページには、広告が掲載されていた。そのた め、作者に広告を削除するように要求したのだという。一方、該当ページの作 者は、あくまでも個人のホームページの中の一部であると主張しており、バン ダイの個人とマスコミとでの対応の違いは根拠が薄い。

また同社は、仲間内での非営利目的の使用であれば問題がない、と判断して いるという。しかし、すでに多くの新聞や雑誌、商用サイトでは「たまごっち」 をテーマにした特集が組まれている。この点に関しては、個別に対処し、写真 等を配布しており問題ないと解答する。だが、多くの新聞・雑誌では、独自に 撮影した写真等が実際に使用されている。

その一方で同社は、個人からの同様の問い合わせに対しては、広告が入る場 合の掲載を一切禁止しているという。一般的に、WWWコンテンツは、既存の新 聞や雑誌と同様に、出版物としての公共性と影響力を持っていると考えられて いる。そのおかげで、個人でも大手出版者と肩を並べて情報発信が出来るよう になったわけだ。こうして個人と出版者の垣根が取り払われた今となっては、 バンダイ側の主張には全く根拠がない。

また、該当ページの削除ではなく、広告の削除を要求したところにも矛盾を 感じる。

商標の使用に問題があるなら、その該当部分を変更・削除するように求めれ ば済むのではないだろうか。広告とは独立した問題としてとらえるべきである。

こうした理解し難いバンダイ側の主張に対し、出版業界を初め、多くの応援 メールがページの作者のところに届いたという。同氏は現在、バンダイ側の主 張が不鮮明であるため、対処に困っているとのことだ。

[Reported by yuno@impress.co.jp]


どうも偏った見方をしていますが、事実はだいたいわかると思います。メー カー側がなぜこのような要求をせざるを得なかったのか、またネーミングの希 釈化という視点からも記事を考えて欲しかったですね。

まず、社会現象にまでなっている「たまごっち」というネーミングですが、 これは一体誰のものなのでしょうか?メーカーの独創的な製品がヒットした場 合、メーカーはそのネーミングを支配する権利をすべて自分のものにしようと します。ネーミングの保護としては商標法があります。バンダイは少なくとも 昨年の9月に「キーホルダー」と「おもちゃ」の分類で「たまごっち」の商標 出願をしています。しかし、商標で保護されるのはあくまで出願した範囲で、 あらゆる商品やサービスすべてに「たまごっち」を使うことまでは及ばないの です。このようなことからメーカーが考える対策としては、営利目的で「たま ごっち」をコンテンツとするビジネスに対しては不正競争防止法に基づく保護 を主張するということになります。

問題になった個人のホームページ( http://home.highway.or.jp/kazuyan1)に は多数のバナー広告が掲載されており、少なくともこの広告収入で一応のスモー ルビジネスが成立していると見ることが出来ます。「たまごっち」というヒッ ト商品に便乗していると言わないまでもやはり「たまごっち」をテーマにして いるからこそアクセスも多いわけで、それにつられて広告掲載を希望する業者 も出てくるわけですね。このようなビジネスに対して、メーカー側は本当に何 も言えないのでしょうか?

また、このページには著作権で保護されるべきキャラクターも使われていま す。この点については今回は問題にはなっていないようですが、本来ならば権 利者が削除を請求し得る部分であるとも言えます。

結局、メーカー側が取る対応を考えてみると、「ホームページの閉鎖要求」 →「ネーミングおよびキャラクターの使用禁止」→「広告の禁止」となるわけ です。ここで、ホームページの閉鎖やキャラクターなどの使用禁止をしてしまっ てはたまごっちを愛する多くのファンの機嫌を損ねることになってしまいます。 ファンあってのたまごっちなので、これはメーカーとしてもまずいわけで、結 局、「たまごっちで儲けることはやめてね」となったのではないでしょうか?

メーカーは自社のアイデンティティーにかかわるような重要なネーミングに 関してはその希釈化を防止するためにあらゆる手段を講じます。たとえば数年 前にソニーが千葉の「ウォークマン」という店を不正競争防止法で訴えたのは、 自社の特徴的な製品である「ウォークマン」のネーミングの希釈化防止を図っ たためだと言われています。

また、インターネットウォッチの記事では、「WWWコンテンツは、〜途中省 略〜個人でも大手出版者と肩を並べて情報発信が出来るようになったわけだ。 こうして個人と出版者の垣根が取り払われた今となっては、バンダイ側の主張 には全く根拠がない」と述べていますが、この点にも疑問があります。つまり、 インターネット上に大手出版者(インプレスもこれに入るのかなあ?)が持ち込 み始めている既存のルールを、個人のホームページにも区別なく適用すべきだ というのは逆じゃあないでしょうか?今までは、大手出版者には自主的な倫理 規制があり、だからこそバランスがとれていみじくもこの種の財産権が保護さ れてきた経緯があるわけです。たとえば、ゲームの雑誌で行われている各雑誌 横並びのゲームの裏技紹介なんてのもこれにあたるわけですね。どこかの雑誌 が一足先に情報をリークしてしまうとその雑誌には、次回からメーカーからの 情報は流れなくなるわけです。

ところがこのようなバランスが取れないインターネット上での企業対個人の 関係では、やはり新しい倫理なりルールなりが必要だと思うんですけどねえ。 たとえば、ある個人がたまごっちのROMをリバースして裏技や隠れキャラなん かをいち早く自分のホームページでリークしてしまうと、ユーザーにとっては 製品をプレイすることで初めて発見できる楽しみが暴露されてしまい、製品の 面白さを半減させてしまうことになります。これは結果的に企業の開発意欲を 低下させてユーザにとっては魅力ある製品が供給されないという図式になって しまうんじゃないでしょうか?

ところで、今回のバンダイ側のネーミングに対する姿勢にも問題がないとは いえません。たとえば、バンダイのホームページ( http://www.bandai.co.jp/) にはもちろん「玉ゴッチ」のコーナーが設けられているのですが、これほど社 会現象になっているネーミングにもかかわらず、ネーミングやキャラクターの 使用条件の説明が全くないのです。ユーザが「たまごっち」をテーマにしたホー ムページを開設するときには、どのような条件のもとで°のようなキャラクター までは使用してもよいというような基準を明確にしておくべきでしょう。やは りインターネット上で問題になりそうなことはインターネット上で明確な基準 を提示すべきです。この意味で参考になるのが以下のアップルの例です。


●●●アップルロゴマーク使用許諾の例

アップル社の虹色のりんごマークと言えば単に商標としてだけでなく、デザ インとしても多くの人に好まれています。私の友人にはDOS/Vマシンにアップ ルマークのシールを張ってマックの呪縛に自分から浸っている者もいます (~_~)。

さて、シールでも人気のあるこのアップルのリンゴマークとロゴですが、単 にマックフリークだからといって自分のホームページに使ってもよいのでしょ うか?

この点についてアップル社は良い意味でも悪い意味でも自社の方針を明確に 打ち出しています。アップル社のホームページには「アップルボタン//トレー ドマーク使用許諾契約」( http://www.apple.co.jp/AppleLogo/index.html)と いうページが用意されています。ここには、アップルのロゴボタンをホームペー ジに貼り付ける際の注意事項が事細かに規定されており、リンクを貼る場合の リンク先の指定まで明記されています。これらの条項を承諾する場合にはこの 場合にはこのページの下にある「同意」ボタンを押せばロゴマークの使用ライ センスが締結されるわけです。

各条項の規定そのものにはたとえば「24時間運営されていなければならない」 など、個人のホームページ開設者に義務付けるにしてはかなり乱暴な項目も見 受けられます。しかし、自社のメインマークデザインをどのような条件でなら 使用しても良いかという指針を示している点では、後々問題を起こす余地があ るよりはかえってユーザに親切だと言えるでしょう。

結局のところ、インターネットのホームページでは自分の車にステッカーを 貼るような気分で他人のマークをベタベタと貼り付けるべきではありません。 他人のネーミングなり著作物なりを利用するにはやはりそれなりの礼儀が必要 なわけで、ましてやそのページで多少なりとも収入を得るのであればやはりス ジを通すべきなのです。


●●●ホームページのネーミングと他人の商標との関係

インターネットの中心的な技術はWWW (World Wide Web) であり、インター ネットユーザはWWWサイトにアクセスすることにより、文字情報、画像情報、 音声情報または動画情報などを得ることができる点にあると言えます。この WWWには商業目的で開設されているものが多く、ユーザーの端末画面上に現れ るネーミング(マーク)がどのような意味を持つのかが問題となってきています。

もし、ユーザー端末上で表示されるマークが特定の商品またはサービスと関 連付けられてユーザーに認識されるものであるのならば、このマークは商標法 で保護される商標ということになります。このマークは現在各国ごとに商標登 録しなければ保護されないことになっています。また、1つの国で登録されて いても他の国では登録されるとは限らないのです。

今まではこの国ごとの保護であまり問題はなかったのですが、インターネッ トは国境のないボーダーレスな世界です。ホームページのタイトルがこの既存 の商標と問題になるケースが出始めてきています。


●●●プレイメン事件にみる越境データによる商標権侵害

これは米国における事例ですが、イタリアから発信されたWWWによる画像提 供サービスの名称「PLAYMEN」がアメリカで成立している商標権を侵害すると された事件です。

被告のチャックルベリー社は1979年に同被告のタティロ社(Tatillo Editrice)からイタリアの男性向け雑誌プレイメンの米国における出版独占ラ イセンスを受けました。しかし、1981年に米国においてプレイボーイ社より商 標権侵害で提訴され、プレイメン出版の差止判決を受けたため、チャックルベ リー社およびタティロ社は米国から撤退しました。

その後、最近のインターネットブームに乗ってタティロ社はイタリアでWWW サーバーを開設し、「PLAYMEN」のタイトルで全世界に対してアダルト画像デー タの提供を開始しました。

プレイボーイ社はタティロ社がプレイメンの名称を用いてイタリアからイン ターネットサイトを操作することで(米国民に画像データを提供する行為は) 1981年の裁判所の差止命令に違反したと主張して裁判所侮辱罪でタティロ社を 訴えました。

この事件では、まずこのようなサービス形態でのデータの閲覧が米国内での 「頒布」(disribution)に該当するか否かという点が争われました。タティロ 社は、「画像データはイタリアにあるサーバーに単に(たまたま)掲載されてい るにすぎず、米国顧客が加入申し込みをして当該画像データを閲覧できるのは、 あたかも米国からイタリアに飛行機に乗って雑誌を買いに来るのと同様であり、 この行為はイタリア法により合法であり、米国の差止請求により排除されない」 と主張しました。

しかし、裁判所はインターネットの技術について特別の保護の必要性を肯定 しながらも、知的財産権の裏をかくような行為は許されるべきではないと述べ、 イタリアのタティロ社は米国民からの閲覧申込を受け付けてはならないという 判決を下しました。

この事件の背景には、以前タティロ社はアメリカで「PLAYBOY」の商標権侵 害の判決を受けていたにもかかわらずインターネットで同じことを繰り返した という特殊な事情があるのでアメリカでの裁判管轄を認めたということらしい です。

同種の事件で、ニューヨークで見ることのできるWWWの広告だからといって ニューヨークに裁判管轄は認められないとした判決(Hearst Corp.v.Goldbeger)もあるようです。

一般的に言ってインターネットのホームページに単にマークを表示したから といって予想もしない国で裁判を起こされるのはたまりません。しかし、その マークを使って海外の国民から料金を徴収したり、商品を販売したりすればや はりターゲットになるその国での商標権侵害になる可能性はあるわけです。

外国語(特に英語)のページを用意して外国の国民に対して製品を通信販売す るようなページを日本のサーバーに作ったときには、その製品のネーミングが 通信販売を行おうとしている国での他人の商標を侵害しないかどうかは調べて おいたほうが良いでしょう。


●●●おわりに

今回は、ホームページタイトルとして他人のネーミングやマークを利用する とき、そしてそのホームページタイトルと他人の商標権との関係について考え てみました。結局のところ、インターネットで世界に窓が開かれたからといっ て既存の権利の尊重はされなければいけないわけで、決してやり放題ではない ことは当然なわけです。

確かにインターネットは個人でも大企業と対等に渡り合えるメディアであり、 社会的に影響力を与えることの出来る手段を個人でも簡単に持てる時代になっ たと言えます。非営利の個人のホームページならば事実上他人の権利侵害が起 きていても問題にしない場合も多いのですが、これが営利目的になってくると 「個人だから」という甘えは許されなくなります。

インターネットビジネスに踏み出す際にはこの点を十分に注意しておかなけ ればいけません。このような配慮を行ってこそインターネットビジネスでの成 功もあるのです。


ネットワーク時代の知的所有権入門