INTERNET magazine 1997年04月号 pp.348-351より抜粋

ネットワーク時代の知的所有権入門

第26回
第三者の著作物の複製に対する批判の不当性

知的所有権オタクにならないために

ネットワーク知的所有権研究会
弁護土 寺本振透
Teramoto Shinto
http://www.st.rim.or.jp/~terra/


●●●1.質問

 インターネット上のメーリングリストやニューズグループ、あるいは、パソコ ン通信のフォーラムなどで、メンバーが自分の発言中に第三者の著作物(または、 その一部)を複製した場合、他のメンバーから"それは犯罪行為だ"といっ て口をきわめてののしられることが多い。そのような批刊は正当なのか7


●●●2.はじめに

 著作権を含む知的財産権を保護しようという意識が一般に醸成されつつ あること自体は結構なことだ。だが、それがいきすぎて、知的財産権諸法によっ ては正当化され得ないようなあやしげな発言が横行したり、知的財産権諸法 の目的に反する横暴がなされたり、あるいは、法政策上人為的に限定された期間 付与されるに過ぎない知的財産権を絶対視する不可思議な主張がなされたり、さ らには、四六時中私人同士が監視し合う戦時中のごとき自警団社会が出現するよ うでは、嘆かわしい。

 職業的法律家の、知的財産権に関する不用意な"売らんかな"主義の発言が その種の現行法が正当化しない行為の氾濫を招いているのだとすれば、 職業的法律家は猛省を迫られよう。

 なお、私は、あくまでも、現行法が権利者に与える道具立てのみを用いて営 利活動をする職人であるから、本稿も、現行法に基づいた議論のみを行う。もち ろん、現行法が著作者に与える権利が過小であると考える人か、法の改訂を主 張することは自由である。そのような主張を選挙制度を通じ、国会においてな されることは、現行法も認めるところであろう。だが、そのような人が、単に私 の主張が気に入らないからといって、現行法の正当な解釈にすぎない私の記述を 批判するならぱ、それは、筋違いである。本稿は、現行法の解釈であって、立法 論ではない。


●●●3.さまざまな条件

 多くの場合、契約は法律が定める原則を変更することができる。また、個々の 人は、第三者の行為が自分の法的リスクを増大させるおそれがあると合理的に考 える場合、その行為をやめるように求めることも、正当化されよう。そうすると、 批判を行った人の立場により、結論が変わりうることも想定できる。

●●●4.著作権者本人またはその代理人の立場から

 著作権者は、第三者に対して、"私の著作物の複製をやめてくれ"と請求する権 利を持つ[1]。 また、"私の著作物を有線送信することをやめてくれ"と請求する 権利も持つ[2]。したがって、著作権者本人またはその代理人が、もし、そうし たいと考えるならば、メーリングリスト等で自分の著作物を無断で複製した発言 をしたメンバーに対して、"コピイをやめてくれ"または"有線送信をやめてくれ" と求めることは正当だ。もちろん、きわめて少数の知人間のメーリングリストで の発言であれぱ、"私的使用のための複製"として複製は自由であるし[3]、また、 公衆が受信するわけではないから"有線送信"の対象外となるため[4]、著作権者 が排他的権利を及ぼすことはできない。つまり、"コピイをやめてくれ"とか"有 線送信をやめてくれ"と求めることは、"著作権法上は"、正当化されない[5]。ま た、複製された著作物が公表されている場合には、その複製が"正当な引用"の範 囲にとどまる場合、やはり著作権者が排他的潅利を及ぼすことはできない[6]

 一方では、著作権者ば、上記のような排他的権利を行使するか否かを自分自身 の判断て決める権利を持つ。自分が排他的権利を行使したくないと考えているの に、第三者が勝手に排他的権利を行使することを、著作権法は認めていない。そ れは、民事上は著作権が私的な権利として著作者に認められるにすぎず、また、 刑事上は著作権侵害が原則として親告罪であることから導かれる[7]

 著作権者の立場からすると、自分の著作物を他人が複製または有線送信するこ とを認めるかどうかは自分自身の専権であるのに、自分の代理人でもない第三者 が勝手にそれらを禁止したり犯罪行為よばわりすることは、はなはだ迷惑なこと である。とりわけ、告訴するつもりもない行為を犯罪よばわりする第三者の出現 によって、あたかも、著作権者自身がケッの穴の狭いヤツだと思われることは心 外である。無関係な第三者の不用意な発言によって著作権者自身か損害(とりわ けけちだと思われることによる名誉毀損、このようなけちな企業の商品を買うの をやめようと消費者が考えることによる商機の逸失)の賠償を、民法上の不法行 為に基づき、お節介な他人に対して請求することは、十分に正当化されよう。

 なお、著作権者は、その商品やWWWサイトにおける表示において、"本著作物の 無断複製いっさいを禁止する"むね記述することが多い。私自身、職業的法律家 として、クライアントに対してそのような記述をすすめることが多い[8]。だが、 そのような場合であっても、著作権者が本当にあらゆる無断複製に対して排他的 権利を行使し、差止および損害賠償を請求しようと考えている場合は少ない。で は、なぜ、そのような、"現実に権利行使するであろう範囲"より広い範囲を示す 警告メッセージを記述するのだろうか?第一に、事前にあらゆる場合を想定して "権利行使する予定の範囲"と"権利行使しない予定の範囲"とを区別して明確に記 述することは困難である。第二に、一見同じような複製行為であっても、"競合 他社がやるのであれは排他的権利を行使したい"が、"潜在的顧客となり得る消費 者がやるのであれば排他的権利を行使しない"ことにするのは普通である。だが、 競合他社が潜在的顧客であるかのような外観をもって複製行為をしないとは限ら ない。第三に、"権利行使をしないつもりである" 範囲をあまり広く記述すると、 害意ある他人がそれを悪用したあげく、"おまえは、権利を行使しないと表示し たではないか"と開き直る危険がある。だから、権利者とすれば、実際の意思よ りもやや厳しい警告メッセージを表示したうえで、複製等を行った者の立場と行 為の態様、それに自分に対する迷惑の大小と権利行使のコストを勘案したうえで、 個別に権利行使するかどうかを任意に決定したいと考えるのは、当然のことであ る。それゆえ、著作権者が上記のような表示をしているからといって、著作権者 の代理人でもない赤の他人が勝手に、著作物のコピイについて攻撃することも正 当化され得ない[9]

 とはいえ、著作権者が、代理人でない赤の他人がそれぞれに、密告活動を行う ことを推奨することを特に法律が禁止しているわけではない。あなたが密告者や お節介な非難者になりたいと考えるかどうかは、あなたの生き方の問題である。 ただし、へたに他人に対して"著作権侵害である"とか"犯罪行為である"とかいっ て非難したあげく、それが不相当であった場合にはもちろん、相当であったとし てもことさら公にののしる必要がないのにそうした場合にば、名誉段損(私法上 は民法における不法行為。刑法上は名誉毀損罪[10])を構成する法的リスクをみ ずから侵すものであることを知っておくほうがよいだろう。


注:

[1] 著作権法21条 著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。

[2] 著作権法23条1項 著作者は、その著作物を放送し、又は有線送信する権利を 専有する。

[3] 著作権法20条1項 著作権の目的となっている著作物…は、個人的に又は家庭 内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的便用」 という。)を目的とする場合には…その使用する者が複製することができる。

[4] 著作権法2条1項17号 有線送信 公衆によって直接受信されることを目的と して有線電気通信の送信…を行うことをいう。

[5] "著作権法上は"と断る必要がある。もし、複製された著作物が、もともと私 的な発言であり発言者が第三者によって知られた〈ないものだったとすれば、発 言者は、そのプライバシーを守るため、著作権法ではなく、民法上の不法行為に もとづいて、メーリングリスト等での複製をやめるように求めることを正当化さ れよう。

[6] 著作権法32条1項 公表された著作物は、引用して利用することができる。こ の場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、 批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならな い。

[7] 著作権法123条1項 …の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができな い。

[8] また、いちいち著作権法者にことわりなく複製してよい範囲を記述する場合 には、現実に認めるよりも多少狭い範囲を記述することも一般的である。

[9] なお、余談にはなるか、契約文言や警告メッセージは、まったく同じ法的機 能を達成するためには、同じ(または、きわめて類似した)文言を用いる必要が ある機能的記述であるから、特定の目的を達成するための道具の形状と同様、著 作権の保護対象とならない。したがって、少なくとも日本法上は、コピイは自由 である。小谷対ジャパンライン(いわゆる"船荷証券用紙事件"東京地判昭和40年 8月31日、下民集16巻8号1377頁、判時424号40頁、LEX/DBNo.27755008)参照。

[10] 刑法230条1項 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の 有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁固又は五十万円以下の罰金に処す る。


●●●5.主催者、サーバー管理者、シスオペ等

 なお、メーリングリストの主催者、サーバー管理者(インターネット・サービ スプロバイダーやパソコン通信管理会社を含む)、シスオペ等については、別段 の考慮が必要である。彼らは、メンバー等による第三者の著作物のコピーの結果、 著作権者自身から排他的権利を直接行使される法的リスクを負っている。したがっ て、単なる一メンバーにすぎない人のお節介とは異なり、主催者等は、自らの法 的リスクを回避するために個々のメンバーに対して、第三者の著作物をコピイし た発言をしないように求めたり、そのような発言を削除することも正当化されよ う。もっとも、著作権者自身が、"どんどんコピイしてください"と明確に表明し ている場合にまで、その著作物のコピーを削除することば正当化され得ない。

 パソコン通信におけるシスオペは、通常、パソコン通信管理会社の委託を受け て、第三者の著作物をコピイした発言の削除を行うことになっている。だが、著 作権者自身が"どんどんコピイしてください"と明確にお願いしている著作物がコ ピイされた場合にまで、勝手に"著作権を侵害する"と不用意に警告して発言の削 除を行うならぱ、そのシスオペは、著作権者自身から民法上の不法行為に基づく 損害賠償請求を受ける法的リスクを侵すことになる。パソコン通信管理会社は、 シスオペがそのような法的リスクとパソコン通信管理会社の要求との間で板挟み とならないよう、シスオぺが侵さざるを得ない前記法的リスクに対して補償して やるような契約をシスオペとの間でかわすべきである。私ならば、そのような補 償を提供しないパソコン通信管理会社のシスオペをひきうけることは絶対にしな いし、私のクラィアントにもすすめはしない。


●●●6.プライバシー

 念のため、最後に重ねて述べておくが、著作権の問題とプライバシーの保護の 問題は、区別して考えなければならない。著作権を侵害しない行為がプライバシー を侵害しないとは限らない。典型的には、ある人の診断データは、単なる事実の 記述だから、著作権によっては保護されない。しかし、それを安易に公に開かれ た場でコピイして発信することは、その人のプライバシーを侵害する(民法上の 不法行為)ことに留意しなければならない。

 知的財産権とは、産業の発展のため、あるいは、文化の発展のために、創造的 活動を行った者や商売上の信用を獲得した者を保護するために、政策的に、限定 された範囲でのみ認められる排他的権利にすぎない。知的財産権諸法は、法体系 全体の中では、ごくごく限定された地位を占めるにとどまり、社会の変化次第で どんどん変わっていくものである。特許法など、毎年改訂されるので、弁護士や 弁理士でさえ、フォローするのが大変だ。

 ネットワーク上で我々か活動するときに関わってくる法律問題は、いわゆる知 的財産権に限らないのであって、とりわけ、私人間の権利義務関係の基本を示す 民法は決して無視できない。さらに、警察等の捜査機関が証拠収集の過程で違法 に人権またば経済的利益を侵害した場合に対する具体的な対抗手段を市民に与え る刑事訴訟法を無視するわけにはいかない(憲法は重要だが、それを具体化する 手段を無視していたのでは、市民の権利を守れない)。また、ネット上で取引を するときには、商法、金融関係諸法、税法も無視できない。

 知的財産権馬鹿にならないように、広い視野を持とう。


参考文献

*中山信弘 "マルチメディアと著作権" 岩波新書 1996年

*パメラ・サミュエルソン "著作権の強奪" WIRED 日本版 1996年6月号84頁

*白田秀彰 "コピーライトの史的展開" 一橋研究19巻4号、20巻1号、3号および4 号、21巻1号、2号および3号、1995・96年、 http://leo.misc.hit-u.ac.jp/hideaki/copyright.html

*寺本振透 "知的財産(権×)宣言 第1回" WIRED 日本版 1996年6月号84頁、 http://www.ddp.co.jp/wired/bit/tera/

*寺本振透 "引用される権利の宣言" http://www.st.rim.or.jp/~terra/quo.html


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