◆測量法4条 この法律において「基本測量」とは、すべての測量の基礎となる 測量で、建設省国土地理院(以下「国土地理院」という)の行うものをいう。
◆測量法29条 基本測量の測量成果のうち、地図その他の図表、成果表、写真又 は成果を記録した文書を複製しようとする者は、国土地理院の長の承認を得なけ れはならない。国土地理院の長は、複製しようとする者がこれらの成果をそのま ま複製して、もっばら営利の目的で販売するものであると認めるに足る充分な理 由がある場合においては、承認をしてはならない。【1】
したがって、我々は、無断で国土地理院の地図を複製してホームベージに載せ てはならない【2】。もっとも、だからといって、我々が国土地理院の地図を 複製することか困難だというわけでもない。国土地理院の地図の複製および使 用の承認を求めるための窓口が国土地理院にある【3】。国土地理院の統計に よれば、地図を含む国土地理院の基本測量の成果の複製または使用の件数は、 平成6年度(1994年)で、6,000件を超えている。なお、国土地理院は、ホームペー ジを開いて、積極的に国民に対する公報を行っているから御参照いただきたい 【4】。
【1】(筆者注)我々が国土地理院の地図を利用した地図を営利目的で販売しよう とする場合であっても、国土地理院の地図を"そのまま複製"するのでなければ、 国土地理院長の承認を得ることは可能である。現に多くの市販の地図は、国土地 理院の地図を利用したうえで、それなりの情報を付加するなどの加工をしたもの である。
【2】ここで、私が、"…のリスクがある"という表現ではなく"…してはならない "という表現を用いたことに注意していただきたい。その理由は、測量法のこれ らの規定が、著作権のような私的権利を定める規定ではなく、取締規定だからだ。 測量法29条の違反に対しては1万円以下の罰金に処する旨を、同法64条が定める。 なお、私的権利を定める規定と取締規定の違いについては、 本連載第15回 (本誌 1996年5月号256〜259頁、うち258頁)参照。
【3】建設省国土地理院総務部総務課管理係。〒305茨城県つくば市北郷1番。電 話番号は、【4】のサイトで確認のこと。
国土地理院のホームページ http://www.gsi-mc.go.jp/JIS/gsihome.html
まず、地図に著作物性【5】があるかないかを検討する。著作権法10条l項ば次 のように規定する。
◆著作権法10条1項 この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおり である。 略…
六 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物 略…
してみると、地図は、原則として著作物るということがわかる。著作権法2条1 項1号の "著作物"の定義に従えば、地図であっても単純な事実の記述作であっ て、作成者の思想も感情もまったくないようなものが仮にあったとすれは、そ れは、著作物性を有しまい。だが、現実には、作成者の考え方がまったく表れ ような地図はまず存在しないだろう。(将来地図を自動的に作成する技術が発 達すれば別だが)。
旧著作権法(明治32年3月4日法律第39号)には、地図を著作物の一例として下す 規定かなかったから、法廷において、地図の著作物性が争われたことがある。 これに対して裁判所は、次のようになぜ地図の著作物性を認めるのかを説明し た【6】。
◆地図というものは自然科学的厳密さ以て地球上の現象を存在するまゝに一定の 記号を以て表示するものであるから、恰かも写真の如く現実がそのまゝ記号とな つて表示されるものであるが、一面それは学術的図面として地図製作者の学識、 見識等その個性か表示されていなくてはならないものであることは、容易に之を 了解することができる。例えば表示すべき地名の撰択にあたっても、各地の文化 程度、人口密度状態等を考慮して著者の撰択によりその必要と思われるもののみ を表示するものであるから、同一大の日本地図について見ても中には同一地名を 共に表示する事も多々あるであらうがそのすべてにつき同様であるということは 人間の個性の相異のある如く絶対ありえないことであるし、又地図を著作する人 の学識、見識、経験、個性等によつては可成りの程度迄異なつてきて、一流の地 図著作者の作成した地図は、学識、経験のない人の到底作成し得ない程すぐれた ものとなるものである。此の意味に於て地図に著作権を認めその著作者を保護す る必要がある訳である。
現行著作権法(昭和45年5月6日法律第48号)は、おそらく以上のような裁判所の 考え方を受けて、著作物の一例として地図を明示したのであろう。それゆえ、 他人が作成した地図を、我々が、無断でホームページに掲載することは、作成 者 (または、彼から著作潅の譲渡を受けた者)の著作権と牴触することになる 【7】。場合によると、彼の著作者人格権に牴触するかもしれない【8】。結局、 我々は、他人が作成した地図を権利者に無断でホームページに掲載するならば、 権利者から差止、損害賠償などの請求を受けるリスクを負うことになることに 留意すべきだろう〕もちろん、権利者に告訴され、我々が刑事上の責任を負う ことになるリスクもある(著作権法119条、123条1項)。弁護士が依傾者から助 言を求められた場合、一般的には、このような法的リスクを回避するために、 あらかじめ、権利者の承諾を得ておくことを推奨することになろう。
【5】"著作物性"とは、ある作品が、著作権による保護の対象となるかどうか、 つまり、著作権法にいう"著作物"であるかどうか、という問題である。この判断 は、原則として著作権法2条1項1号による"著作物"の定義("思想又は感情を創作 的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをい う")に照らして行う。ある作品が"著作物"であるとされたならば、少なくとも、 第三者がその作品の"まる写し"をすることは、その作品に対して権利者(著作者 または彼女から権利を譲り受けた者)の著作権(この場合、著作権を構成する権利 の束のうちの1つである複製権)に牴触することになる。だが、その作品を利用し てはいるが"まる写し"でない作品を第三者が作ったとしたら、それが常にもとの 作品の著作権に牴触するとは限らない。もとの作品の性質によって、それに対す る"著作権の保護範囲"の広狭がさまざまに変化するからだ。 本連載第18回(本誌 1996年8月号322頁、うち324頁から325頁)参照。
【6】大阪地判昭和26年10月18日、下民集2巻10号1208頁。LEX/DB No.27420060 (LEX/DBには、例えば、NIFTY‐ServeからGO TKCで入ることができる)。
【7】通常、著作権を構成する権利の束のうち、複製権(著作権法21条−著作権者 が他人による著作物の複製を排除することができる権利−)および有線送信権 ( 著作権法23条−著作権者が他人による著作物の有線送信を排除することができる 権利−)が問題となろう。
【8】もし、もとの地図が未公表なら、我々がそれをホームページに載せて勝手 に公表することは、著作者の公表権(著作権法18条−著作者が第三者による著作 物の公表を排除することができる権利−)が問題となり得る。もし、我々が著作 者の意図に反して著作者の氏名を表示せず、または、勝手な表示をしたならば、 著作者の氏名表示権(著作権法19条)が問題となり得る。もし、我々が著作者の意 図に反してもとの地図を改変したならば、著作者の同一性保持権(蕃作権法20条) が問題となり得る。なお、これら著作者人格権は、著作者が第三者に譲渡できな いことに注意。
地図Bか地図Aに依拠していたとしても、地図Bには、bなりの思想または表現か 表れているのが通常だろう(著作権法第2条第1項第1号)。だとすれば、我々は、 さらに、b(または、bから著作権の譲渡を受けた者。ただし、著作者人格権に ついては、b本人)の許可なしに地図Bをホームベージに登載するならば、やは り権利者から差止、損害賠償などの謂求を受けたり、告訴されたりするリスク を負うことになるだろう。一般的なリスクの回避方法は、あらかじめ、承諾を 得ておくことである。
この問題についても、裁裁判所が参考となる考え方を提示してくれている【9】。
◆…新著作が他人の著作物を基本として作成された場合であっても、そこに独自 の創作性が加えられた結果、通常人の観察するところにおいて、旧著作の著作物 としての新著作の創作性の陰にかくれて認識されないときは、新著作は単なる複 製でも二次的著作物でもなく、他人の著作物の自由な利用により創作された独自 の著作物であると認められ、著作権侵害とはならないというべきである。この場 合、模範として利用された旧著作の独自性が顕著であればあるほど、新著作中に 化体された精神的業績が高度であることが、新著作を独立の著作物として保護す るため必要とされるが、旧著作が個性的表現の僅少なものであれは、これに対す る著作権による保護は厳格に限定されねばならないから、新著作の著作物として の独自性はは認められ易くなるといえる。…住宅地図においては、その性格上掲 載対象物の取捨選択は自から定まっており、この点に創作性の認められる余地は 極めて少いといえるし、また、一般に実用性、機能性が重視される反面として、 そこに用いられる略図的技法が限定されてくるという特徴がある。従つて、住宅 地図の著作物性【10】は、地図一般に比し、更に制限されたものであると解され る。
すなわち、地図のような実用的、機能的な著作物については、著作権の保護範 囲が比較的狭いのであるから、地図Cを参考として地図Dが作成されたからといっ て、地図Dが地図Cの著作権を侵害しているとは 即断できないのである。もし、 新しい地図を作成するときに既存の地図を参考にしてはならないということに なると、地図を作成する人はすべてを一から始めなければならないことになっ て不経済である。著作権法は、我々にそのような不経済を無理強いするわけで はない【11】。
弁護士がcの立場の依頼者に助言するときは、おそらく、地図Dか地図Cの著作 権を侵害していると軽率に主張することか無駄な訴訟費用の発生や、cが地図D の作成者に対して不法行為責任を負う卒態をひきおこしかねないリスクがある ことを認識すべきであると申し述べることになろう
【9】富山地判昭和53年9月22日、無体集10巻2号454頁。LEX/DB No.27755036。
【10】裁判所は"著作物性"の語を使ったが、正確には、"著作権の保護範囲"とい うべきであった(この引用部分の注は原文にあったものではない)。前述【5】参 照。
【11】本連載第4回 (本誌1995年6月号100頁、うち103頁)参照。