弁理士 松倉 秀実
Matsukura Hidemi
弁護士 宮下佳之
Miyashita Yoshiyuki
弁護士 寺本 振透
Teramoto Shinto
先月より続いている座談会も今回で完結編です。 寺本先生も合流して、 著作権団体やネットワークの契約に関することが話の中心になります。ちょっと刺激的な発言もありますが、 今後のネットワーク社会にからむ権利の問題点について活発に意見が交わされました。
- 編集部:
- 去年あたりから、 インターネットに音楽を流すことが行われてきていますよね。 日本では、JASRAC (日本音楽著作権協会) が保守的な立場をとっているのとは裏腹に、 アメリカやイギリスなどは、 新しい時代に対応しようとしている…。 こんな状況の中、 日本はどの方向に向かうのでしょうか?
- 寺本:
- アメリカが積極的で日本が消極的っていうのは、 マーケットの問題ですね。というのは、 アメリカの場合は著作権を扱うエージェントっていうのが、 大きいところだけでも3つくらいあるらしいんです。 日本の場合は、1つで独占していて、 しかも法律によってその独占が事実上保護されているわけですよね。
もし、競争のあるところであれば…。 たとえば日本でも信託業法が変わって、 著作権の信託(注1) ができるというようになったとして。 権利を信託銀行に持っていくもんねっていう人がでてきたとしら…。 エージェントとしては、 より広いマーケットを狙うこととして、 ウチに持ってくるほうがあなたにとってより大きい利益があげられますよ。 それによって手数料が高くできますよというような方向に 行こうとするんと思うんですよ。 だけど、1社しかないんだったら、 疲れるのいやだからこうやっとこうというほうが残りそうなんですね。(注1) 著作権を行使する権限もその名義も信頼できる他人にいっさい預け、 自分は、そこから間接的に利益を得ようとすること。
- 松倉:
- それじゃあ、寺本先生の考え方でいけば、 著作権の管理団体も、 もっとライバルを増やして切磋琢磨してったほうが いいんじゃないかってことですよね。
- 寺本:
- そりゃ、競争のないところに腐敗ありですからね(笑)。
- 松倉:
- それは、刺激的な発言ですね(笑)。
- 寺本:
- 実際に日本の信託法でそれができなくても、 あの債権信託で有名な信託的譲渡というのがあるわけですよね。 本来信託(注2)と 純粋な譲渡(注3)は別のものだったわけですが、 これは譲渡はしたけど、 実質的な利益が手もとに残るというやり方なんです。 たとえばケイマンのようなタックス・ヘイブンの国に会社作って、 そこに著作権を売っちゃえばいいわけですから。
(注2) 権利者の名義は信託銀行や他人に移るけど、 自分が依然として受益者でありつづけること。
(注3) 名義も利益もいっさい譲受人に渡してしまうこと。
- 松倉、宮下:
- なるほど
- 松倉:
- ということは、 日本のアーチストでも ”俺は別のやり方をするもんねっ” という人は海外に飛ばして…。
- 寺本:
- そこで、たとえば信託銀行が、 ケイマンとかパナマとかにスペシャルパーパスカンパニーを作って、 そこえ譲渡しなさいと。 譲渡しても、 我々は誠実な管理人ですから 実質的にあなたの管理権を損なったりしませんよと。 で、それをバックアップするのが日本の銀行の信用力なわけです。 日本の銀行の信用力は、まあ揺らいでいるとはいえ、 それでもまだ銀行上位という状況ではあるのですから、 いまそれは銀行にとって大きなビジネスチャンスですよ。
- 宮下:
- ただ、権利を譲渡してしまったら JASRAC がカラオケ店とかからお金を徴収しているわけじゃないですか。 その分配にはあずかれなくなるっていうことになるのかしらね。
- 寺本:
- そうですね。 ただ、ずるくなれば両方利用するっていう手もあるわけですよね。 海外にどんどん出すためには、 ケイマンのカンパニーからやっちゃおうと。 で、ケイマンのカンパニーはさらに JASRAC に信託してしまう。 こうすれば、 両方とれるぞっていう非常にいやらしいやり方も可能になってくる、 理論的には。 海外のスペシャルパーパスカンパニーからの信託を JASRAC が拒むことはできないんじゃないんですかね。 日本で一つしかないのに拒むということは、 独禁法上の問題が出ませんか?
- 宮下:
- 音楽に関して言えば、 法律があるもんだから法律を変えないとしょうがないという部分もある。 JASRAC を少し弁護するために逆の点から言うと、 日本の場合、 統一的な使用料金規定みたいなものをバラバラにみんなで作れって言っても かなり大変なわけです。 ある程度団体でまとまって、 それで団体ごとで話をして、 そこで国がその手助けをして決めるっていう部分で ある意味での成果は上げていると思うんです。 ルール作りという意味などにおいてはですけど。
- 寺本:
- でも、それはそれであっていいわけだし、 これからも JASRAC はあり続けるでしょう。
たとえば、一つのクリエーターでも、 彼女の発展の段階によって最初は JASRAC を使おうと。 次は信託銀行を使おうと、 そして次は自分でエージェントカンパニー作ってやろうと。 こんなような発展段階が絶対にあるんだろうから、 そういう意味ではエントリーレベルにおいて 今の JASRAC は続くんじゃないんですか。 だけど、そのレベルを越えてもっと儲けたいんだぞっというときに、 それを越えるやり方が絶対に出てくるはずです。 実は、 それをやろうとしている人間はいっぱいいて、 すでにスペシャルパーパスカンパニーを海外に作っている人間もいるわけです。 だから、それは段階が何段にもなるんじゃないんですかね。
だって、僕らだって貯金するときに、 初めに30万しかなければ郵便局に行くぞと、 1千万あったらどっか銀行に行くぞと、 もっとあるとベンチャーに投資しようかという段階があるわけだから。 だから、 より面白いものを作るからといって その前のものを否定するってことはないと思う。 つまり、住み分けっていうことであって、 そのものを否定するっていうのはどうかなって気がするということですよね。
- 編集部:
- そうすると、 管理団体との競争というものが出てくる可能性だってあるわけですよね。
- 宮下:
- 管理団体間での競争が働かないっていう問題の一つの原因としては、 一回出しちゃったらだれがダウンロードするか分からないし、 それがどんな風に使われるのかも分からないっていうことで、 過剰に神経質になっているという面も多々あると思うんです。 で、そういう人たちが積極的にデータを提供しようと思うようにするためには、 それによって儲けたっていう人が現われないと なかなか怖くて出せないっていうところがあるんですよね。 そういう意味で、 データを提供した場合の成功例が日本や海外で出てくるというのが 非常に重要になってくるでしょう。 で、おそらくそういう成功例ってそろそろ出てくるんじゃないのかな。
- 寺本:
- もちろん出てくるだろうし、 エージェントビジネスをやろうっていう金融機関が出てくれば、 人工的にでも無理矢理作ってしまうと思うんですよ、日本は。
で、僕の頭では、 金融の世界で起こったことっていうのが、 これからインターネットが急激に発展する過程で、 知的財産の世界でもどんどん起こると思うんですよ。 たとえば、大昔だったら社債発行してお金集めようってことは、 日本の会社なんだから日本国内でやるのが当然だと 思いこんでいたわけですよね。 だけど、ヨーロッパで円建てで発行して、 あとで日本の投資家はヨーロッパを通じて買っているという状態のほうが 発行にかかる手数料とかが安いし、 向こうのほうが手慣れているってことになって、 みんなそっちに行っちゃったわけですよね。 で、そうこうしているうちに、 これはいかんということで、 日本の債権市場をもっと自由化しようと大蔵省主導で動きだしたわけですよね。 それと同じことが絶対に起こると思うんです。
- 宮下:
- 僕もそう思いますね。 実際にそういう動きがありますものね。 たとえば、 わざわざイギリスのサーバーを使って日本に音楽を提供するとか…。
- 編集部:
- 最近、続々とマルチメディアタイトルが生まれてきています。 そんな中、 作品の二次利用という点で クリエーターと出版社などとのトラブルが絶えないわけですが、 この辺はどう解決されるべきなんでしょうか?
- 寺本:
- たとえば、 問題があるから何か新しい排他的な権利を作りたいという主張が ときどき現れる。 それはそれで、 しばしば合理的な主張でもありうるわけです。 だけれども、アメリカの場合は確かに圧力団体として、 こういう法律を作れとか、 あるいは著作権の解釈をこうしろとか、 ディストリビューションライツ(注4)の中に 有線で送るものも入れろとか、 そういう法改正の問題はもちろん出ます。 しかし、それ以前の問題として、 自分が契約する場合、 契約の中にはっきり自分の権利としてそれをうたうことを 一生懸命やっています。
で、しかもこういう権利があるべきだと思った場合、 それが明文になる前に 裁判所にあいつは権利を侵害しているんだと一生懸命訴えて主張して、 裁判所から権利をもぎ取ろうとするわけです。
だけど、日本の場合、 出版社などの主張を見ていると、 これから作っていくライセンスの契約書の中に、 なんにも書いていないのにもかかわらず、 電算写植化したり、 DTP のためにレイアウトをデジタライズしてレコーディングした そのデータに対して、 そのデータを他人がコピーしようとするとその排除を請求できるような権利 (排他的権利)をくれくれと言う。 くれくれ言うのはいいけれど、 ちゃんと契約書に書きなさいよと僕なんか思うわけですよ。
だから、契約書にちゃんと書いたうえで、 これは俺の権利だと裁判所に何度も何度も訴えたうえで、 そして不法行為で勝った、 不正競争防止法で勝った、 さあ著作権両面作戦をに入れろと、 これこそ正しい順番であって…。
それっていうのはフォントの世界で歴史のある企業らがやってきて、 成功してきたことですよね。 それをなぜやらないのかなっていうことが気になります。(注4) 自分が作った著作物の複製を勝手にみんなにばらまかないでくれと 他人に対して請求する権利。
- 松倉:
- やらないでおいて、 法律的にまずデジタル化権を認めてくれという主張ばかりをしている というわけですね。
- 宮下:
- 政府指導のいろんな権利範囲なんかも決まっていて、 紛争なんかが起きたときに ボトムアップでいろんな仕組みができているっていう そういう形になっていない。
- 寺本:
- だから、両面作戦をやっていかないといけない。 法律を変えろというのはそれはそれでいいんだけれど、 ビジネスの契約でも行動を起こさないといけないんです。
でも、こっちの方の話にはあまり力強さがないんですよね。 契約書にこれは俺の権利だってことをはっきりと書いて、 そのうえで法律でも認めろ、 差止請求権が欲しいんだからといえば、 うんなるほどって思うんですよね。 だけど、そうはしていない。
それから、たとえば、 著作権法の改正で排他的権利が認められたとしますよね。 だけど排他的権利は、 それを認めるっていうのは 第三者からすれば彼女の権利というのはそれだけ減るっていうことですよね。 そうすると排他的権利というのが新たに作られたとしても、 時代をさかのぼって適用するということは適切じゃないと思うんですよ。 これから作るものに関しては排他的行為というものは認められるとしても、 すでに作ってしまったものに対して 新しい排他的権利が発生するっていうことは、 その合理性を示すのは多くの場合において難しいのではないでしょうか。
そうすると、 これからっていうことに関することにしか意味のない権利を作るんだってら、 どうせこれから先のことなんだから、 今後契約書を作るときにちゃんと権利を書いとけよと思うのです。
- 松倉:
- でもね、実際のビジネスの現場に行くと、 こちらは、 契約以後のこれからということに関してはなるたけ譲歩して、 なんとか受け入れを認めてもらいたい。 ところが、そのコンテンツができあがると、 こちらはそれがデジタル化された場合の権利も主張していきたいというふうに 立場が変わることがあるんですよね。
- 寺本:
- いや、立場が変わるからこそ、 法律で一律にされるよりは、 契約でこっち向いているときは自分に有利なように、 あっち向いているときも自分に有利なようにって 契約書に書くべきなんじゃないですか。
- 宮下:
- ビジネス的には、 確かにそうなんだけれども、 今の日本のビジネスっていうのは、 わりとなあなあで、 とにかく取引がうまく成立してくれないと困っちゃう。
- 松倉:
- そうね、 著名な作者になんかコンテンツを作ってもらうときなどは、 出版社もかなり譲歩して作って頂くという形になる。 ところが、できあがってしまうと出版社側のほうでも権利を主張し始める。
- 宮下:
- たとえば、映画作るときなんかでも、 以前は、劇場公開だけを想定して取り引きしちゃったわけじゃないですか。 で、あとの2次利用なんてことはあまり考えなかった。 とにかく目先の映画を作るっていうことだけを優先させちゃったわけですよ。 つまり、 いまその取り引きだけを成立させるってことのほうが重要で、 先の話はなんとなく話がつくもんだみたいな甘い期待のもとで 成り立ってたんだと思うんですよね。
- 寺本:
- でもそんな甘い期待のもとに成り立った契約はね、 いざ監督からケチがついて裁判所に行ったときに、 結局通用しないことなんですよね。 だから、向こうが泣き寝入りしてくれることを望んで、 いい加減な契約にしようとするのはアンフェアだから、 国内でしか通用しないですよね。 国内でだって、 今こそベンチャーのほうが、 あるいは個人のクリエーターのほうが、 積極的に弁護士を雇って契約交渉をする時代なんだから。
- 宮下:
- あとで問題になって、 どうしようとなるとかなり大変で、 やっぱり最初の段階で、 細かいことをきちっと詰めて、 自分が本来、 こういうふうにしたいというところを正直にぶつけていかないと 逆に効率が悪くなっちゃう。
- 寺本:
- 結局、今までは、 漫画家とか音楽家のために安い値段でやる弁護士なんてあまりいなかった。 だから、あとで金払うからいいだろうと言われてしまえば、 それで終わっちゃうというわけです。 そういう甘い世界で出版社は生きてきたわけだから、 クリエーターに弁護士なんかがついたらそれだけで、 びびってしまって出版社側は謝っちゃうわけです。 そしたら、何のために最初にお金払ったんだということになる。 だから、実際にはその中間を求めるべきであって、 2次利用についてある程度予想できる範囲のものに対しては、 金をくれという契約にしておく。 そして、 あとでもう1回もめて払うよりは、 安い金でも最初から上のせしておいたほうが、 お互いハッピーだと思いますよ。 なぜそれをやらないのか。
- 松倉:
- ただ、クリエーターってのは最初の段階ではまだそんな意識はないだろうし、 ある程度売れてきて始めて、 そういう意識が生まれてくるということもありますよね。
- 宮下:
- クリエーターのほうからすると、 あらゆる権利を吸い取られるみたいな契約で運用されているというケースは 多いですね。 ほんとは、 ここをこうすればもっとクリエーター側に有利なのに なんて点もあるわけですが…。
- 松倉:
- 最初はそうせざるを得なかったというのもありますけどね。 それに、 弁護士さんってとっても高い料金がいるぞみたいな社会常識みたいなものも、 1つの問題かもしれない(笑)。
- 宮下:
- それは、おおいに反省すべきことですね。 それに、書籍出版協会で出している出版契約書も、 電子出版で出版するというケースはあまり想定されていなくって、 紙ベースのものが前提なんですよね。 そうすると、 電子出版なんかの場合だとどうなんだろうっていうと、 やはり標準的なひな型みたいなものはまだない状況ですね。
- 寺本:
- 普通の小説とか、 ジャーナリズムとかと違って、 漫画の場合ですと、 アニメ化とかゲーム化とかというのも頭から考えちゃうわけですよね。 そうすると、 どういう契約が結ばれるかというと、 まず、雑誌や週刊誌に出版するのに対して第一に出版権を設定するという 契約が結ばれるわけですよね。 で、それと同時に2次利用について、 いっさいの権利遂行を委任しますという1枚の紙っぺらの委任状が 張り付けられるんですよ。
- 松倉:
- でも、 なんとか漫画賞とかに入選したばっかりの人っていうのは、 そりゃ、 ただもう言われるままにサインするしかないのが現状じゃないかな。
- 寺本:
- それは、これまで、 メディアが限られていたからですよね。 しかし、これからは、 いやならもう自分で出すもんねということが、 ロジックとしては可能になってきている。 で、さらに次の段階としてエレクトリックキャッシュが 自由に使えるようになれば、 その上でもう金もとれるんだから、 いつまでも縛られないぞということになるから、 いきなりサインというのが減ると思うんですよ。
- 松倉:
- 直接読者からお金をもらえるっていうシステムができるかもしれませんよね。 今まで我々がテレビに出ようとか、 コマーシャルを出すとか、 なんか本を出そうとすると、 莫大なお金がかかって、 一生に一度本が出せれば、 たとえ自費出版でもいいみたいな感じだった。 それが、 インターネットだとそれこそ5千円でできてしまうが、 世界の人が見てくれる。 これにコンテンツとしての価値があるのであれば、 料金徴収システムというのが確実にできるでしょうね。
これで、 座談会は一応終了です。 このあとは食事をしながらの延長戦に突入です。 お酒も入って、 さまざまな話題にリンクしていきます。 その模様は、またいつか…。