INTERNET MAGAZINE 1996.2 より、転載

ネットワーク時代の知的所有権入門
第12回
ホームページを作ろうというあなたに…
−使っていい素材と悪い素材−

ネットワーク知的所有権研究会

弁護士 宮下 佳之
Yoshiyuki Miyashita


はじめに

WWW にはまって、毎日、夜中にネットサーフィンをしているうちに、 ふと「そーだ、自分のホームページを作ろう!」 と思うようになるのは自然の成り行きでしょうね。 そして、それがわりと簡単にできるのがインターネットの良いところです。 HTML も、C 言語とか Basic を覚えるのに比べればめちゃくちゃ簡単だし、 ホームページ開設サービスを受けるためにプロバイダーと契約をするのも そんなに面倒ではない。 それに、費用も思ったほどかからない。 ということで、個人ユーザーも企業ユーザーも、 みんなせっせとホームページを作っています (ちなみに、一緒にこのコーナーで連載している秀松氏は、 もうすでにしっかり自分のホームページを持っている...ym もほしい!)。

ところで、ホームページを作って情報を発信するためには、当然提供する中身がいる。 じゃあ、何をどんな風に提供するのか。 どうせ、ホームページを作るからには面白いものを作りたい。 そんな風に考えるのは自然な情ですね。 そして、面白いものを作るためには、 手っ取り早く雑誌に掲載されている画像データをスキャナーで読み込んだり 市販の CD を利用したくなるでしょう。 でもちょっと待ってください。 画像データや音楽などの既存の素材は、 通常、 この連載で何度もでてきた「著作権」という権利やそのほかのさまざまな権利で 守られているんです。 それじゃあ、 どんなものだったらホームページの素材として使えるんでしょうか。 黙って使ったら、 どんな責任を負わされるんでしょうか。 今回は、そんな問題について皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

では、まず、最初の質問から、、、


Q.

私も今度ホームページを立ち上げようと思い、 よい題材はないかと考えた結果、 「好きなアーティストの CD を紹介するホームページを作ろう!!」 ということになりました。 で、そこで困ったのが、、、

  1. ジャケットの写真を撮ってホームページに載せる
  2. CD を録音して、PCM のデータファイルにして載せる
  3. その曲の MIDI データを載せる

以上の3点が著作権の法律上許されるのかということです。 はたして(無許可で)どこまで許されるのでしょうか?


A.

ご質問のケースは、 もっとも典型的な事例であって、じつは、 最近港でよく問題になっています。 7月号や8月号で、類似のケースについて説明しており、 一部繰り返しになってしまいますが、 再度取り上げてみましょう。

ジャケットの写真を撮ってホームページに載せることができるか

ジャケットの著作権について

著作権法という法律によると、 「思想又は感情を創作的に表現したものであって、 文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」は「著作物」と呼ばれ、 「著作物」を作った人は、 「勝手にコピーするな」とか 「勝手に不特定又は多数の人が見たり、 聞いたりできるようにするな」 などと言えることになっています。 じゃあ、CD のジャケットは、 「著作物」かというと、 よほど特殊な場合を除いて、 「著作物」と認められることになるでしょうね。 とくに最近は、デジタル式の録音機器が普及していることなどもあって、 各レコード会社はジャケットのデザインにかなり凝るようになっています。 これは、 レンタルレコード点から CD を借りてデジタル式の DAT とか MD で録音すれば、 中身の音楽自体は全く同一のものとなってしまうので、 外側のパッケージで勝負しようという必要性が高くなってきていることも 一因となっています。

そうすると、勝手にジャケットの写真をとってホームページに載せれば、 著作権という権利のうち、 「複製権」(勝手にコピーするなといえる権利)と 「有線送信権」 (電話回線などを通じて公衆が見れるようにするなといえる権利) とを侵害するということになってしまいます。

もっとも、 著作権法には著作権が制限される場合がいくつか規定されており (これを「著作権の制限規定」と呼んでいます)、 著作権の制限規定が適用になる場合には、 形式的に著作権を侵害するように見えても 著作権侵害の責任を負わないと考えられています。 ご質問のケースで、 適用されると考える余地があるのは次の規定です。

著作権法第32条
公表された著作物は、 引用して利用することができる。 この場合において、その引用は、 公正な慣行に合致するものであり、 かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で 行われるものでなければならない。

注意してほしいのは、 この著作権法第32条が適用されるためには 「批評等のためにジャケットの写真を引用する必然性があって、 なおかつ、 批評等が主体であって、ジャケットの写真は、 従たるものでなければならない。」 と考えられていることです。 とすると、 ご質問のようなケースで著作権法第32条が適用になるというのは、 残念ながら現状では難しいんじゃないかと思います。

確かに、 個人が非営利の目的で利用している場合であって、 しかも CD を紹介することを目的とするにすぎないという点で 「その程度だったら使ってもいいじゃないか」 と思う気持ちも分からないではありません。 でも、ホームページにデータを載せるということは、 世界中の人たちがそのデータを利用できるようにすることとも言えるわけですから、 利用者側から見れば「その程度」であっても、 権利者側から見ると 「かなりの程度」と見られることになり得るのです。

以前、8月号で「ワインのラベル」についてお話ししましたが、 読者の皆さんの中には、 あの時の話しとちょっとニュアンスが違うんじゃないかと思われる方も多いでしょう。 そうです。ym の理解では、 今回のご質問のケースで実際に想定されるリスクは 「ワインのラベル」のケースとは相当違うんです。

なぜでしょうか。 第一に、すでに説明したように CD のジャケットは、 ほぼ確実に著作物と認められるだろうという点です。 「ワインのラベル」は「工業デザイン」であって、 著作権法上の保護が及ばない、 などの議論を展開する余地がないことはないんですが (もちろん、具体的なデザインしだいですが、、、)、 CD のジャケットの場合には、 一般的には、そのような議論は難しいんじゃないかと思われます。 「著作権を侵害する」と認められた場合には 刑事責任も問題とされることになっていますから、 きちんと反論ができないような利用の仕方は避けるべきです。 第二に、レコード会社はジャケットのデザイン自体に経済的価値を持たせよう (つまり、「レンタルレコード店からコピーしたんじゃジャケットをもらえないから、 やっぱり CD を買おう」と思われるようにしよう) と考える傾向が強い点です。 (実際にレコードのジャケットはそれ自体が鑑賞の対象となり得るようなものが相当ありますよね。 もちろん、程度の差の問題にすぎないともいえますが、、、)。 一方、ワインの「レンタル店」なんてものはないこともあって、 ワインのラベルを作った人は一般的にはラベル自体に経済的な価値を持たせようという意識は、 比較的高くないのではないかと考えられます。 第三に、レコードのジャケットについて著作権を持っている人たち (通常は、レコード会社)は、 自ら著作権ビジネスの中核を担っていることもあって、 著作権に対しては相当敏感であり、 著作権侵害行為に対しては厳しい態度でのぞむ傾向にあることです。 これらの点を考えると、 著作権侵害が問題となるリスクは相当に異なっていると考えられるのです。

アーティストのパブリシティ権について

ジャケットの写真を利用するためには、さらに、 もう1つのハードルがあります。 それは、ジャケットに写っているアーティストの「肖像権」または「パブリシティ権」 と呼ばれる権利です。 (この点については、7月号で説明しましたんで参照してください)。 アーティストないしはその所属事務所としては、 アーティストの肖像や名前を使ってビジネスをしようとしているわけですから、 勝手に使われれば当然激怒して、 場合によっては法的処置をとったりもするわけです。 実際にアーティストの「パブリシティ権」を侵害したものとして、 差し止めや損害賠償請求が認められた判例は、 これまでに相当積み重ねられています。

考えられる対応について

やはり、そうした問題を考えれば、 レコード会社とアーティストの所属事務所の了解を得ないで 勝手にジャケットの写真を利用するのは、 リスクが大きすぎると思います。 もっとも、ジャケットの写真を販売しているような場合でなく、 単に CD を紹介する目的で個人がジャケットの写真を ホームページに載せているような場合に 刑事責任が追及される可能性は必ずしも高くはないと思われますが、 レコード会社やアーティストの顧問弁護士名で、 内容証明郵便で警告書が届いて 「こら!なにやっとるんじゃ!」とどやされて、 少なくとも差し止め要求 (すなわち、載せた CD のジャケットの削除) に従わざるを得なくなる可能性は結構あるんじゃないかと思われます。

ところで、レコード会社やアーティストの所属事務所とすれば、 インターネット上で CD を紹介してくれるホームページができれば、 それなりの宣伝効果も期待できるので、 一定の条件が満たされればジャケットの写真を載せることを 認めてくれるかもしれないのではないかと思います。 その場合、 レコード会社やアーティストの所属事務所側では アーティストのイメージ維持に神経をとがらせているので、 その紹介の仕方、 ページのデザインなどをきちんと説明し、 ジャケットの写真の大きさや精度、さらには、 掲載の期間などについて十分打ち合わせをする必要がありそうです。


CDを録音して、PCM データファイルにしてホームページに載せることができるか、 その曲の MIDI データを載せる場合はどうか

CD には、通常「著作物」の1つの種類である「音楽」が録音されており、 これをホームページに載せれば著作権 (そのうちの「複製権」と「有線送信権」) を侵害することになります。 じつは、 ご質問の例のように PCM データファイルや MIDI データを無断で Web ページに 載せている例がしばしばあり、 最近、問題にされてきています。 インターネットがそれほど普及していない時代には、 権利者サイドもあまり気にしていなかった (ないしは、よく理解していなかった)のですが、 ここまでインターネットが普及してその影響が大きくなると、 何らかの対応を考えざるを得なくなってきたということでしょうか。

はっきり言って、 許諾を得ずにご質問のような形で CD を利用するのはやめたほうがいいと思います。 ジャケットの写真を利用する場合よりも、 ずっとリスクは大きいと考えたほうがいいかもしれません。 まず間違いなく著作物と認められるであろうという点、 それ自体に経済的価値がある点、 権利者側の意識や姿勢などについてはジャケットの写真と同様の問題があるんですが、 そのほかに、 権利侵害を問題とする余地のある権利者が相当に多い、 各権利者が権利侵害に対処するための団体を作っており、 権利侵害行為に対して厳正な態度で望んでいるなどの要素もあるからです。 これらの点について、以下にちょっとご説明しましょう。


音楽の権利関係について

音楽ビジネスについては、 関係者が相当に多いこともあって、 権利関係は若干複雑になっています。 まず、出発点は作詞家や作曲家が楽曲を作る事です。 作詞家や作曲家は、 楽曲を作る事によって楽曲の 「著作者」として「著作権」を取得します。 でも、楽曲について著作権を持っているというだけではビジネスにならないので、 その楽曲が実際に利用されるようにしなければなりません。 そのような楽曲の利用開発、 すなわちプロモーションをする役割を果たすのが音楽出版者です。 通常は、 楽曲の著作権は作詞家や作曲家から音楽出版社に譲渡されて、 音楽出版社がプロモーションをし、 作詞家や作曲家は著作権使用料を印税の形で受け取ることになるんです。

ところが、 音楽出版社は楽曲のレコード化や CM での使用などのプロモーション活動はできても、 全国津々浦々に広がるカラオケ店での利用実態を調査したり、 個別に許諾実務を行うことは、 その組織の規模などから考えても極めて困難です。 そこで、「著作権」は、通常は、 さらに社団法人日本音楽著作権協会 (「JASRAC」「ジャスラック」と呼ばれています。) に信託的に譲渡され、 JASRAC が使用料を集めて、 これを一定の分配式に従って権利者に分配することになっています。 これが、音楽著作権の基本的な権利関係です。

音楽ビジネスに関係する権利者は、 著作権者だけではありません。 CD を作るためには演奏する人がいて、 それを録音してマスターテープを作って、 CD にプレスする人が必要です。 演奏する人は著作権法上「実演家」と呼ばれて、 「著作隣接権」(そのうち「実演家の権利」といわれる権利) という権利を持つことになります。 マスターテープを作った人も「レコード製作者」と呼ばれて、 著作権法上同様に「著作隣接権」 (そのうち「レコード製作者の権利」といわれる権利) を持つことになります。 実演家のほうは社団法人日本芸能実演家団体協議会という団体を作り、 主要なレコード会社は社団法人日本レコード協会という団体を作って、 それぞれ権利保護のための活動などを行っているのです。

結局、CD に録音された楽曲を利用しようとすると、 その楽曲について著作権を持っている JASRAC の権利、 著作隣接権を持っている実演家やレコード製作者の権利などが問題となるわけです。 (ちなみに楽曲の一部を利用したり編曲しようとすると、 音楽出版者の翻案権や作詞家・作曲家の著作者人格権なども問題となり、 さらに話しはややこしくなるんですが、 この点については今回は特に問題としないことにしましょう)。

JASRAC は、もともと使用料を徴収することを主たる目的とする団体ですので、 権利侵害行為に対しては、 場合によっては刑事告訴や損害賠償請求などの厳しい態度で望んでいますし、 実演家やレコード製作者なども上記のように権利保護のための団体を作って、 組織的に権利侵害行為に対処しています。

このような現状に鑑みると、 安易に CD に録音された楽曲をホームページに載せるのは、 やはり、やめるべきでしょう。

それじゃあ、どうやったら許諾を受けることができるんでしょうか。 JASRAC は、本来は一定の使用料を支払いさえすれば、 楽曲を利用できるように利用の円滑化を促進することも目的としているのですが、 インターネット上での利用などに関する利用料金の額などは いまだにはっきりとは決まっていない状況にあり、 スムーズに利用許諾の手続きを済ますのは、現状では困難です。 また、レコード会社や実演家のほうも、 これまでに例のない利用形態であることもあって、 すんなりとは結論を出せない状況にあります。 そうした状況から考えると、 残念ながら現状では個人が CD に録音された楽曲をホームページ上で 利用するのはちょっと難しいでしょうね。


ネットワーク時代の知的所有権入門