弁護士 寺本振透
Shinto Teramoto
弁護士 宮下佳之
Yoshiyuki Miyashita
前回は、アダルト画像にからんで、表現の自由に触れました。 それに関する問題として、 今月はいくつかのテクニカルな問題に回答いたしましょう。
アダルト画像に限らず、 人によって好き嫌いが極端に分かれる種類の情報は多くあります (性に関する情報、賭博に関する情報、宗教に関する情報など)。 これらの情報をインターネット上で、 不特定多数の人の目に触れ得るかたちで流す場合、 どのようなことに気をつければよいのでしょうか?
まず、 その情報が置かれたサイトにたどり着いた人の目に いきなりその種の情報が目に触れないようにしてはいかがでしょうか? そして「未成年の人はここから先に進まないでください」 (米国のアダルトもののサイトでは、念の入ったことに、 「あなたが未成年者ならスタートレックのサイトへどうぞ」 と表示してリンクを張っているものがあります。 スタートレックフリークのサイトを探すには、まず、 米国のアダルトもののホームページを見るのが早かったりする今日この頃!)、 「ここから先には xxx の種類の情報が含まれています。 そのような情報が嫌いな方はどうか先に進まないでください」、 「xxx の種類の情報を配布することは、xxx、xxx、xxx 国の法律で規制されています。 xxx 国の方はここから先に進まないでください」 といった表示をしておくことが考えられます。また、 例えばアダルトもののサイトで未成年者が入ってこないようにするために、 有料化して、 クレジットカード番号・住所・氏名・年月日を入力してもらって、 成年者であることを確認した人だけ先へ進めるパスワードを発行するというのはどうでしょうか? 確かに (娘や息子が親のカード番号を勝手に使うのでない限り) これは、 利用者が成年者であることを確認するのに良い方法かもしれません。 けれども、 あなたは利用者のプライバシーを守るために必要な環境をととのえているでしょうか? 利用者のプライバシーはクレジットカード会社に筒抜けではありませんか? 利用者のデータは暗号化されていますか? このあたりの心配があるので、 私は、 そのようなサイトにはアクセスしないでしょう。
なお、せっかく玄関口に 「好きな人以外はここから先に進まないで!」 という警告を出しておいても、 よそのサイトから先のページにリンクを張られると、 警告を読まずにいきなり露骨なページに飛び込んで困惑する人がいないとも限りません。 そのようなことを避けるためには、 中身のページにアクセスするのに玄関口でもらったパスワードが 必要な形をとるのも1つの方法です。
ともかく、 この問題は情報提供者の責任回避と情報受領者のプライバシーの折り合いを 付けるのが大変難しいのです。 成人専用の匿名ネットワークキャッシュが実用化されるとよいのですが (ネットワークキャッシュについては、たとえば http://www.digicash.com/ をご覧ください)。
また、 ネットワーク上の表現の自由についても、 米国や英国で政府が規制しようとする動きがあって、 ネットワーカーと激しく対立している例もあります。 一方では、 ネットワーク全体としては各参加者の自由としつつ、 商業利用をするいくつかの企業グループの間ではある種の情報は制限する自主的なモラルや ルールができてくるのではないでしょうか?
ネットワークを通じたやりとりに対する規制は、 表現の問題だけではありません。 ネットワーク上で取引すれば、 当然それに伴って対価を銀行送金や小切手などで受け取ることになります。 たとえば、 外国の人にビデオソフトを販売して、 こういった支払いを外国から受け取ることについては規制があるのでしょうか?
日本では、外為法 (がいためほう。正式には”外国為替及び外国貿易管理法”) があって、 国境を超えたお金のやりとりをコントロールしています (といっても、以前と比べるとずいぶん自由化されました)。また、外国でも同じような法律があって、 やはり一定の規制がかかっています。 ただ、 外国の法律をすべて日本側からチェックするのは困難ですから、 そのビデオソフトを輸入してもよいか (たとえば、アダルトものの場合)、 その対価を日本円なり、その国の通貨なり、 あるいは米ドルなりで日本国内の売り主に対して送金してよいかどうかは、 外国の買い手に自分の責任で判断して頂くことにしましょう。
そうすると、 問題は日本国内の人が外国の人から、 日本円なり米ドルその他外国通貨なりの支払いを受けられるか、 ということになりますね。 じつは、 現在のところ (原稿を書いている時点、つまり、1995 年 10 月 8 日です)、 上の例で通常関係しそうなお金のやりとりについては、 ”銀行を正規に通さない 500 万円を超える本邦通貨の輸出又は輸入” (簡便のため、法律的には不正確な表現になってしまいますが、 実用上はこれでよいでしょう)と ”円建ての小切手又は約束小切手の輸出又は輸入” については大蔵大臣の許可をもらわなければならないことになっています。
けれども上の質問の例ですと、まず、 どちらにもあたることはなさそうですね (500 万円あっても買えないビデオなんてないでしょう)。
もっとも、 ビデオソフトじゃなくてハイテク製品の場合には、 品物の輸出そのものが規制されますから気おつけてください。
未成年者によるアダルトものへのアクセスを制限する理由を明示したい場合など、 インターネット上で人々がアクセスするサイトに、 国の法令や通達、裁判所の判決、あるいは、政府刊行物、 行政機関発行の資料などのコピーを置いておきたいことがあいます。 こういったものは、 国などに対して断わりなくコピーしてもよいのでしょうか?
著作権法には次のような規定があります。 (じつは外国の著作権法にも、通常は、 同様の規定が置かれています)。
- 著作権法13条
- 次の各号のいずれかに該当する著作物は、 この章の規定による権利 (筆者注:著作権のこと) の目的となることができない。
- 一
- 憲法その他の法令
- 二
- 国又は地方公共団体の機関が発する告示、訓令、通達その他これらに類するもの
- 三
- 裁判所の判決、決定、命令及び審判並びに行政庁の採決及び決定で裁判に準ずる手続きにより行われるもの
- 四
- 前三号に揚げるものの翻訳物及び編集物で、 国又は地方公共団体の機関が作成したもの
- 著作権法32条2項
- 国又は地方公共団体の機関が一般に周知させることを目的として作成し、 その著作の名義の下に公表する広報資料、 調査統計資料、報告書その他これらに類する著作物は、 説明の材料として新聞紙、 雑誌その他の刊行物に転載することができる。 ただし、 これを禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない。
この規定によって、まず、国の法令や通達、 裁判所の判決といったものをあなたのサイトにコピーして置いておくことは、 あなたの自由ということになります。 また、政府刊行物、行政機関発行の資料なども、 ”xx 白書” とか政府刊行物センターなどで一般向けに販売されている ”xx 便覧”とかいったものは、 奥付にでも複製禁止の表示がない限り、 あなたが何かを説明するための材料としてコピーしてよいことになります。
では、”公表”されていない役所内部の資料 (あなたは役所主催の研究会や委員会でそれを入手したのかもしれませんね) をあなたがコピーすることはどうでしょうか? 確かに、これは、著作権侵害になるでしょう。 ただ、あなたは、国家の不正を摘発しようとして、 あるいは、 我が国を外国からの攻撃から守ろうとして義侠心から そのようなことをするのかもしれません (結果として逆の効果を招くことがあるかもしれませんが)。 そのような場合に、 著作権侵害に対して複製物の領布の差止というやり方で 表現の自由を制約すべきでしょうか? 私はそうは思いません。 けれども、 そのような事例において国家があなたに対して差止請求をすることは、 少なくとも著作権法上は許されていますし、 裁判所もそのような考え方をしているのです (「日本人の海外活動に関する歴史的調査」無断復刻事件。 最高裁昭和59年3月9日判決)、
では、次の質問については ym に回答してもらいましょう。
切手やお札のコピーをしてはいけないのでしょうか? 切手やお札の趣味のサイトは海外にたくさんあって、 これらのコピーが表示されていますが、 日本では許されるのでしょうか?
現在はコピー技術がかなり発達していますから、 高精度のカラーコピーをすれば切手やお札のコピーも、 場合によっては本物と紛らわしくなることも考えられますよね。 ”普通の人が本物と誤信するような外観のもの”や、 そこまで似ていなくとも、 ”本物と紛らわしい外観のもの” が出回ってしまうと、 世の中が混乱してしまうので、 切手やお札のコピーに関しては、 いろいろな規制 (とくに、刑事上の規制)が問題になり得ますから、十分、注意が必要です。まず、言うまでもないかもしれませんが、 「本物のような顔をして使ってしまおう」なんて考えて、 お札をコピーして 「普通の人が本物と誤信するような外観のもの」を作ると、 「通貨偽造罪」という重い犯罪 (ちなみに、「無期又は3年以上の懲役に処する」なんて書いてあります) を犯したことになってしまいます。 それから、 「通貨及証券模造取締法」とか「郵便切手類模造等取締法」なんて法律もあって、 お札や切手に紛らわしい外観を有するものを作っちゃだめだぞ、 と定められています。 (ちなみに、違反すると、最高で1年間の懲役に処せられる可能性もありますぞ)。
もっとも、紙媒体にコピーするんではなくて、 ホームページ中にイメージデータとして組み込む場合には、 WWW 上で表示されるだけだから、 普通の人が本物と誤信するような外観の「もの」や切手やお札と紛らわしい外観を有する 「もの」はできないじゃないか、と思われる方も多いでしょうね。 でも、仮にそのホームページにアクセスしたユーザーの中に悪いやつがいて、 お札や切手のイメージデータをダウンロードして、 「普通の人が本物と誤信するような外観のもの」や 「お札や切手と紛らわしい外観のもの」を作ったとしたら、 イメージデータをアップロードした人は、 そういう悪いやつの手助けをしたんだから共犯として責任を負うべきだ、 なんて言われることも考えられないではありません。 やはり、 ものがものだけに細心の注意が必要でしょうね。
そこで、実最上の対応としては、 単純にお札や切手のイメージデータを組み込むのではなく、 お札や切手のイメージ上に、 必ず「見本」とか「Sample」とかの文字が表示されるようにして、 悪用ができないようにすることなども考えられます。
次に、お札や切手は「著作物」だから、 勝手にコピーすると、著作権法違反になるんじゃないか、 という問題も考えられます。 お札や切手のデザインは、 通常かなり凝ったものですから、 「著作物」になるための要件である 「創作性」があると考えられるからです。 この点も考慮すると、著作権の保護期間が過ぎたもの (公表された日の属する年の翌年から50年間経過したもの、 ということになるんでしょうかね) だけを扱うか、または 「公表された著作物は、引用して利用することができる。 この場合において、その引用は、 公正な慣行に合致するものであり、 報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲ないで行われるものでなければならない」 という著作権法第32条1項の規定の適用を受けることができるように、 お札や切手のデザインについての詳細なコメントをつける (「引用」と言うためには引用されるものが「主」であってはならない、 と考えられています) ことなども必要かもしれません。 それじゃあ、たとえば 「世界の切手集」みたいに、 たくさんサンプルを集めて、 データベースを作るようなことはできないのでしょうか。 偽造とか模造とかの問題がなければ、 認められてもいいようなきがするんですが… (日本には、アメリカみたいに一般的なフェアユースの規定がないので、 どうも今一つすっきりしない結論になってしまうような気もしますね)