INTERNET MAGAZINE 1995.11 より、転載

ネットワーク時代の知的所有権入門
第9回
みんなで作ろうホームページ(その2)
−意匠ってなんだ??−

ネットワーク知的所有権研究会
弁理士 松倉秀実(Hidemi Matukura)
弁護士 宮下佳之(Yoshiyuki Miyashita)



ひさびさの登場

久しぶりにこの連載の第1回と第2回を担当した私(ひで松)の登場です。 さて私の近況はというと、 パソコン通信ユーザーとしては至難の道のりであった Netscape のセットアップが 1ヵ月前にようやく完了し、 毎日ネットサーフィンを楽しんでいます。

しかし結構いろいろなホームページがみつかりますねぇ。 あぶないホームページやら奇妙なホームページやら、 どう考えても著作権上問題があるホームページやら。

でもって、 いつのまにか Netscape のブックマークで私が [adult] と名付けたヘッダーの下には たくさんのランジェリーショップのリストが...。(^_^;)

さて今月は、ym 氏(宮下弁護士)と私の二人が登場して、 著作権の問題と意匠の問題について考えてみましょう。


アイコンは意匠になるか?

最初は、小泉さんのご質問です。 はじめに ym 氏に著作権法および不正競争防止法に関して回答してもらい、 その後で私が意匠権についてコメントします。

Q.

Web のページに使用するアイコンキャラクターについての質問なのですが、 Windows3.1 で使用されるプログラムマネージャのアイコン (たとえば、ファイルマネージャならファイル棚の絵柄だったり、 プリントマネージャだったらプリンターの絵柄だったり)にも、 著作権法が適用されるのでしょうか?

それとも、これは、「工業上利用できる意匠」になるのでしょうか?

また、工業上利用できる意匠だとすると、 作成者の許諾を得ることなく自由に使用できるのでしょうか?

A.

アイコンのデザインはかなりシンプルなものが多いですが、 一定のファンクションをわかりやすく表現するためには どのようなデザインが適当であるかという観点から いろいろと創意工夫がされて作られています。 その開発にはかなりの手間暇がかけられており、 また開発費用も相当費やされています。

そこで、アイコンのデザインも技術的思想の「創意的表現」と考えられる余地は 十分あり、 その場合には著作権法によって保護されることになります。 しかし、一定のファンクションをわかりやすく表現する方法というのは それほど多くはないので、 誰が作っても似た様なものになる場合も多々あります。 そこで、アイコンのデザインについて著作権侵害の問題はあり得るとしても、 それはまったくのデッドコピーに近いものか、 あるいは極めて類似している場合などに限られてくるのではないか と考えられるのです。

著作権の次に問題になるのが、不正競争防止法です。

たとえば、ユーザーに広く知られている A 社のアイコン (またはそれと類似するアイコン) を B 社が無断で使った場合には、 A 社の製品と B 社の製品とが誤認混同されたり A 社と B 社との関係に関して誤認混同が生じたりすることが考えられます。 このような場合には、 B 社は A 社のグッドウィル (つまり、営業上の信用力のようなもの) にただ乗りしてアンフェアな競争をしているものと見なされ、 不正競争防止法上、 差し止めや損害賠償の責任を負うことになるわけです。 また、A 社の GUI を B 社が模倣した場合などには 「商品形態の模倣」をしていることを根拠として、 同じく不正競争防止法上の不正競争行為に該当するものとされる可能性もあるのです。

ただし、著作権にしても、不正競争防止法にしても、 実際に問題とすることができるのはごく限られた場合ですので、 アイコンを意匠として意匠法上の意匠登録をしようという動きもでてきています。 (以上 ym 氏)。

さて、ym 氏の回答をご覧いただければわかるのですが、 アイコンというごく限られた小さいエリアでその機能を端的に表わすための デザインでも、 著作権が成立する余地はあります。 これは俳句のような短い文章にも著作権が発生するのと似ています。 しかし、アイコンはマウスなどのポインティングデバイスで それが指定されることにより実現される機能を端的に表わしたものです。 著作権法では伝統的な文芸著作物に較べて 機能的な表現物は一般に創作性が低いとみられています。 アメリカ著作権法で必要なオリジナリティよりももっと高度な創作性 (クリエイティビティ) が必要とされている日本の著作権法では、 アイコンのデザインを著作権法で保護するのは難しいという考え方も出てきます。 ym 氏も説明しておられるように、 不正競争防止法での保護が適切かもしれません。

それでは意匠ではどうでしょうか?

アメリカでは一時期アイコンをデザイン特許として登録を許可していた時期が あります。 日本の現在の意匠法では、 液晶画面などで固定的に表示されるマークについては これを物品のデザインの一部として登録を認めています。 しかしパソコンの画面上に任意の位置に表示されるアイコンについては 現在のところ登録を認めていません。


意匠法改正の動き

ところで、 最近のニュースでは画面上の情報の配置の仕方についても 意匠登録が認められる方向に動いているようで、 近い将来アイコンについても意匠登録ができるようになるかもしれません。 しかし、ここで考えなければいけないのは物品との関係です。 物品を離れて意匠は存在しませんが (このことについては、後で詳しく説明します) アイコンの意匠を認めた場合、 その物品はいったい何になるかという問題が残ります。

具体的に言えば、アイコンの意匠登録を受けた場合、 他人がそのアイコンと同じまたは類似したアイコンを表示するソフトを フロッピーディスクに入れて販売していたとします。 この場合、そのソフトをフロッピーディスクからパソコン側にインストールして 初めてそのアイコンが画面上に表示されることになるわけです。 そうしたら、 アイコンの意匠権者は最終需用者の所有する個々のパソコンを侵害物品として 差し押さえることになるのでしょうか?

また、そのソフトが格納されたフロッピーディスクを 間接侵害品として差し押さえることができるのでしょうか?

WWW サーバーにそのアイコンが登録されている場合には話しはもっと複雑です。 需用者は Netscape などのブラウザを通じて サーバーから画像データとして送られてくるアイコンを表示させるわけですが、 その発信元(WWW サーバー)は外国にあるという場合です。 今のところ著作権を除く他の知的所有権 (特許、実用新案、意匠、商標) は国ごとに権利を申請して登録を受けなければならず、 ある1つの国で権利を取得してもそれは他の国に影響しません (多少の例外はありますが)。 したがって、 アイコンについて日本で意匠登録を受けられるようになったとしても、 外国にあるアイコンを送信してくるサーバーを 日本の意匠権の侵害であるとして差し止めることは 事実上難しいのではないでしょうか? インターネットのような通信回線を経由して 需用者のパソコン上に情報を表示することまで考慮して 意匠法が改正されるならばよいのですが...。

次に、先月 ym 氏がとりあげた三谷さんのご質問に、 もう一度登場して頂きましょう。


意匠からみた本物のデザインと模型のデザイン

Q.

近々、個人のアカウントを取得し、 仲間を募って 「On line 模型作品展示会」 をやってみたいと考えています。 そこで質問があります。

プラモデルの箱に版権使用許諾 (?) のシールが貼ってあることがあります。 テレビ番組のキャラクターなどです。 また、F1 のレーシングカーや私鉄の電車にも 版権に相当するものが存在すると聞いています。 これらを買った人が組み立てた作品にも、 版権はついて回るのでしょうか。

とくに、不特定多数の人に向けて WWW で公開する場合は 許可を得たりする必要があるでしょうか。

A.

版権および商品化権の問題については、 誰の許諾が必要かという点について前号で ym 氏が丁寧に説明してくださっています。 今回は WWW のホームページ上で展示される模型の意匠の問題をお話ししましょう。

いきなりですが、意匠法というのはどういう法律でしょうか?

意匠法は物品の外観のデザインを保護する法律です。 (あっさり!!)。 意匠法第2条第1項には 「この法律で『意匠』とは、 物品の形状、模様若くは色彩又はこれらの結合であって、 視覚を通じて美感起こさせるものをいう」 と規定されています。

つまり、物品の美的な外観はそれ自体で著作権と同様に美的な創作物であるので、 保護する必要があるとともに、 これが消費者の需要を喚起することから 登録制度を作って権利を安定的に付与することにしたわけです。


意匠は物品のデザインに関するもの

まず大事なことは、 意匠として保護されるのは 「物品」に関するものということになります。 さてここで「物品」とは一体何を指すのでしょう?

意匠法の「物品」とは有体物である動産であり、 単独で取引の対象となるものを指すとされています。

有体物とは無体物に対比されるもので、 たとえばガスや電気などは除外されます。 また有対物であっても土地や建物のような不動産は物品ではないとされています。

つまり、 市場に流通している物品の外観のデザインが優れていると、 それが見る人の美感に訴えかけて需要を喚起することから、 市場流通の場面でこれらの機能を発揮できるモノが物品といえるわけです。

このことから、 意匠と物品と一体不可分でなければならず、 物品を離れた意匠は存在しないわけです。 また、物品が異なれば意匠も異なるという原則もでてきます。

少し説明が長くなりましたが、 要するに意匠は物品ごとに成立するものであり、 特許庁に出願するときにも権利を取得したい物品を明確にしなければなりません (意匠法第6条第4号)。

とすると、 自動車会社が新しいデザインのスポーツカーを発売するときは、 意匠登録出願にあたって「自動車」 を物品と願書に明記して特許庁に出願することになります。


自動車の意匠とその模型の意匠とは別

そして審査の結果、 この自動車に関する意匠登録が認められた場合には、 その権利はあくまでも自動車を物品とする範囲およびその類似物品の範囲に 限られることになります。 簡単に言えば「自動車」 について意匠権を確保しておいても、 その権利はその自動車の「模型」(プラモデル) にはおよばないことになります。 もし自動車会社が新しいスポーツカーのデザインについて模型(プラモデル) についても意匠権を確保しておきたいのならば、 物品を「模型」 と指定して意匠登録出願を行っておかなければならないわけです。 意匠法上はプラモデルメーカーではない自動車会社が「模型」 についても意匠権を確保することに問題はありません。

さて、前回の連載で ym 氏が説明して下さったように、 WWW で模型の展示会を行う場合に許諾を求める先は、 その実物の権利者であったり、 模型メーカーであったりとさまざまです。

さらにその模型が組み立て段階でデフォルメ(変容)されている場合には、 組立者個人の許諾を得る必要も出てくるでしょう。

しかし、 意匠に関しては基本的にその模型について成立している意匠権の権利者についてだけ 許諾を受ければよいことになります。 そのためにはその模型について意匠権が成立しているかどうかを 調べる必要があります。 ただし、これは多くの場合、 著作権者のいずれかが模型の意匠権も持っているでしょうから、 著作権使用の許諾を受ける過程で意匠の問題についても解決がつけられるでしょう。


どのようなことをすると意匠権侵害?

ところで、模型に意匠権が成立している場合、 どのような行為を行うとその模型の意匠権侵害になるのでしょうか?

意匠権の効力は、 「業として登録意匠等の実施をする権利を専有する」ことです(意匠法第23条)。 反対に言えば、 他人の意匠を業として実施した場合には意匠権侵害になるということです。 ここで「実施」とは何でしょう?

法律では「意匠に係る物品を製造等したり、 譲渡若くは貸渡のために展示等する行為」とされています (意匠法第2条第3項)。 つまり、模型の販売はもちろん、 販売目的で模型を展示することも意匠権を侵害することになります。 ところで WWW での展示が法律上の 「展示」といえるかどうかは議論があるかもしれませんが、 結局は販売目的で模型展示会を WWW で開くと、 これは意匠権侵害になると言えそうです。

しかし、三谷さんのご質問のように、 その模型の展示会が仲間内での自分の作品を自慢しあうという性格のものであれば、 「業として」の実施になりませんので、 これは意匠の問題は考えなくてもよいことになるでしょう。 (ここまでゴチャゴチャ言っておいてこれが結論とは (^_^;))


後記
さあ、私(ひで松)の担当はここまでです。 ところで、 最近ではインターネットの気の利いたドメインネームを われ先に登録してしまう人がいて、 そのネーミングについての本来の商標権者がインターネット上での 自社のドメイン名として使えなくなったり、 ドメイン名が実存の会社名や商品名と紛らわしくて混同を起こすという事態も 出てきたりしているようです。 このような商標の質問がありましたらまた 登場する予定です (暗に質問を強要しているヤツ)。

ネットワーク時代の知的所有権入門
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弁理士 松倉秀実 ggh01707@niftyserve.or.jp
弁護士 宮下佳之