INTERNET MAGAZINE 1995.8 より、転載

ネットワーク時代の知的所有権入門
第6回
ちょっと気になる著作権とネットワーク時代のニュービジネス
−ワインラベルと著作権法−

ネットワーク知的所有権研究会
弁護士 宮下佳之


 読者の皆さんから、 さまざまなご質問を続々といただいております。 ネットワークの世界のビジネスは、 まだまだ新しい分野であるだけに、 開拓者の皆さんはボコボコと噴出してくる新たな問題に直面し、 いろいろと苦労しながら奮戦しているんだなーと改めて痛感している次第です。

 さて、前回は著作権法上の問題を中心にお話ししましたが、 今回の最初の質問も著作権がらみの問題です。

 東京・自由が丘の吉田さんからのメールです。


Q.

 私はワインに関するホームページをもっています。 そこには、ワインラベルをスキャナーで読んだ画像が多数あります。 これは、著作権上の問題に触れるのでしょうか?

A.

 結論から言いましょう。 日本の著作権法上の建前からすれば、 「ワインのラベル上の著作権を侵害する」と文句をいわれる可能性は、 否定しがたいと思われます。

 しかし、 以下の点を根拠として十分反論する余地はあると思われますし、 万一文句を付けられたら、 その段階で、 文句が付けられたラベルに関するデータを削除することにより、 対応することも考えられますので、 文句を言われることによる現実的なリスクをどのように評価して、 具体的にどうするかは、 別途考える必要があります。

法的問題の結論は、単純な白黒ではない!?

 何とも法律屋さんっぽい回答になってしまいましたが、 実際のところ現実に問題となる法的問題はなかなか白黒つけがたいものが多いのです。 とくに著作権がらみの問題となると、 人によって判断が微妙に異なることが多く、 何年、 何十年と裁判をして裁判官が悩んだ末に、 やむを得ず白黒を無理矢理決めて判決を書いたり、 当事者の方が途中でいやになって、 法律問題はうやむやにしたままで、 足して2で割ったような和解をして紛争を解決(?)してしまうようなことがやたら多いんですね、これが。

 とは言っても、 「著作権侵害」となると理論的には刑事責任の問題も生じるわけですから、 刑事責任を問われる恐れがあるようなことは絶対にやめるべきだと思います。 それから、 刑事責任を問われないまでも、 あまりにひどい「著作権侵害」行為については裁判官が仮処分という手続きで、 こちらの言い分を聞かずに「そんなことしちゃだめだぞ」という命令を出し、 執行官に侵害品や侵害品を作るための装置などを差し押さえさせるようなことも理屈としてはあり得るので、 そんなことになったら大変ですよね。

 そこで、 「じゃあどうしたらいいの」という最終的な判断をするうえでは、 具体的な法的リスクを以下のような個々の観点で慎重に分析すべきだと考えられます。

  1. 刑事責任を問われる可能性

  2. こちらの言い分を聞かないで、裁判官が仮処分命令を発する可能性

  3. こちらの言い分は一応聞いたうえで、裁判官が仮処分命令を発する可能性

  4. 何年もかけて裁判したうえで、差し止めや損害賠償が認められる可能性

  5. 敗訴してしまった場合に、支払うべき損害賠償の額

  6. マスコミなどに与える影響

ワインのラベルは著作物か

 さて、 ワインのラベルが著作物であるとすると、 これをスキャナーで読み込むことは「複製」に該当するので、 ラベルの著作権者の「複製権」を侵害するのではないかと考えられないではありません。 そこで、 ご質問のケースはまったく問題がないとも断定はできないわけです。

 しかし、 そもそもワインのラベルのような図柄が一般的に著作物と言いうるか否かは問題です。 前回もちょっと説明しましたが、 「実用品の模様などのようなものは、 本来、 工業上利用することのできる意匠を保護する意匠法という法律によって保護されるべきであり、 著作権法上保護するのは適切ではない」という考え方があり、 ワインのラベルのようなものは「実用品の模様などとして用いられることのみを目的として製作されたもの」であって著作権法上の保護の対象とならないなどと考える余地があるからです。

 ただし、 上記のような考え方をとった有名な判決において 「実用品の模様などとして用いられることのみを目的として製作されたものであっても、 たとえば著名な画家によって製作されたもののように、 高度の芸術性(すなわち、 思想又は感情の高度に創作的な表現)を有し、 純粋美術としての性質をも肯認するのが社会通念に沿うものであるときは、 これを著作権法にいう美術の著作物に該当すると解することもできる」とも言われているので、 著作物だと認められる可能性の高いラベルもあるのではないかと考えられます。

ワインを紹介する目的でラベルを利用するだけ何だから、 「公正な引用」だと言えないか

 前回もちょっと触れましたが、 著作権法第32条第1項によると、 「公表された著作物は、引用して利用することができる。 この場合において、 その引用は、 公正な慣行に合致するものであり、 かつ、 報道、 批評、 研究その他の引用の目的上正当な範囲ないで行われるものでなければならない」と規定されています。

 少なくとも市販されているワインのラベルは「公表された」と考えられるのは明らかなので、 「公正な慣行に合致」し、 かつ「引用の目的上正当な範囲内で」ワインのラベルを利用するにすぎないものである限り、 著作権法第32条第1項によって著作権侵害の問題とはならないことになります。

 しかし、 そもそも本件のような場合に関する「慣行」なんてものは今のところ確立されていないので、 「公正な慣行」に合致することを証明しろとか言われてもちょっと困っちゃいますよね。 それから、 「正当な範囲内」と言われても「なにが正当か」は判断が微妙ですから、 やっぱり著作権法第32条第1項があっても安心はできないということになってしまいます。

著作権者に何の損害も与えていないんだから、 著作権侵害と考えるのはおかしいと言えないか

 吉田さんのホームページでワインを紹介してもらえれば、 宣伝公告効果が生じてプラスに働くことがありこそすれ、 著作権者に別に何も損害が生じるわけではないので、 「著作権侵害だ!」なんて言って文句を付けるのはそもそもおかしんじゃないか? という素朴な疑問をもたれる方も多いかもしれません。

 しかし、 著作権者には具体的な経済的損失が生じることは、 著作権侵害の要件とはされていないし、 たとえばラベルの原画となった絵を描いた画家が 「ラベルの原画となった絵を画集にしてもうけようと思っていたのに、 売れなくなったじゃないか!」 などと言って文句を付けてくることも考えられないではないので、 「損害が生じていない」から著作権侵害の責任を負わないんだとは言いがたいのです。

 もっとも、 損害賠償を求める場合には実際に損害が発生したことを原告側が証明しなければならないので、 本件の場合に著作権者(と主張する人)が現実に損害を立証するのは困難な面があると思われます。 とは言え、 具体的な損害の立証ができなくとも差し止めが認められることはありえるのでやっぱり注意が必要です。

具体的なリスクは…

 というようなことをいろいろ考えていくと、 吉田さんが刑事責任を問われるということは考えがたいと思いますし、 裁判所が吉田さんの言い分を聞かずにすぐに仮処分命令を発するということも、 まずあり得ないと考えられます。 また、 吉田さんのホームページがワインの紹介を目的とするもので、 ワインのラベルの著作権者などに特段の損害を及ぼすような態様のものでない限り、 文句を言われる可能性はあるにしても、 そのインパクトはそれほど高くないとも考えられるわけです。

 次は、 ニューヨークの松尾さんの質問です。


Q.

 私は、 ニューヨークにて、 日本向けの商品のシッパーをしています。 現在、 WWW サーバーを上げて online shopping を始めようと計画していますが、 私が扱っている商品には正規代理店として日本に輸出しているものとそうでないもの (アメリカの小売店で買い付けているもの=並行輸入) があります。 これらの商品の写真 (カタログからの抜粋ではなく自分で撮ったもの) やメーカー名、 商品名などをメーカーに断わりなくページに掲載することは法律上問題があるでしょうか。

A.

 ご質問のケースに関しては、 WWW サーバーが何処に設置されるのか(日本国内か日本国外か)、 対象となる商品の商標の日本における登録状況がどうなっているか、 対象となる商品が具体的にいかなるものかなどに応じて、 さまざまな問題が生じてくるものと考えられます。 以下に留意すべき問題のいくつかをご説明しましょう。

商品の写真に関する著作権にかかわる問題

 前の質問で問題となったワインのラベルの場合と同様に、 商品のパッケージデザインについても日本の著作権法上の保護が及ぶかどうかの問題があります。 仮に著作物に該当するとすれば、 著作権者の許諾なくこれを WWW サーバー上に「複製」する行為は著作権侵害だと言われかねないことになります。

 しかし、 日本の著作権法はあくまでも日本における行為に関するものであるので、 WWW サーバーが日本国外に設置され「複製」行為が日本国外で行われる限り日本の著作権法上の問題とされる可能性は相当に低いことになります。

 また、 著作権者は「有線送信権」を有しておりますから、 松尾さんが日本で WWW サーバーを立ち上げて不特定、 または多数の人が著作物たる商品の写真にアクセスできるようにした場合は、 有線送信権の侵害の問題も生ずることになります。

 しかし、 仮に WWW サーバーが日本国外で立ち上げられ、 日本においては複製されたり再送信されたりしない場合には、 たとえ松尾さんの WWW サーバーにアクセスする人が主として日本の公衆であったとしても著作権侵害の問題は生じないことになります。 それは、 「現行著作権法は著作者等に対し著作物等の受信に関する権利は認めていないので、 日本国外から我が国の公衆によって受信されても、 著作者等の権利は働かない」 (「著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループ検討経過報告」より引用) と考えられているからです。

 そこで、 ご質問のケースでは日本の著作権法の問題だけでなく、 米国の著作権法の問題も考えなければならないことになります。 今回は紙面の関係(というより ym の能力と原稿の締切との関係?) からあまり詳しくは説明はできませんが、 並行輸入に関連して著作権が最近注目されていますから、 注意が必要です。

 一般的に、 特にいわゆるブランドもののメーカーは並行輸入に対して、 厳しい対応をしており、 従来商標権の侵害などを根拠に並行輸入を阻止すべく、 いろいろな処置を講じていたわけです。 しかし、 いわゆる真正商品の並行輸入 (つまり海外で領布されている正規商品の輸入代理店以外の者による輸入) は商標権を侵害しないとの考え方が一般化してきたことなどから、 最近は著作権侵害を根拠に並行輸入を阻止しようとするケースも見受けられるようになっております。 現に米国ではディッシュウォッシャーの並行輸入が当該ディッシュウォッシャーのパッケージ上の著作権を侵害するものと判示されたケースがあります。

商品に付された商品に関わる問題

 松尾さんが扱う商品に付された商標について、 その商品のメーカー以外の者が日本で商標の登録をしている可能性があります。 商標権というものは、 国ごとに別個の権利である (このような考え方は、 一般に「属地主義」と言われています) と考えられているため、 国ごとに別の人が権利者となることは十分あり得るのです。 その場合には、 その商品は米国内では適法に流通できても日本で取り引きされる場合には 「商標権を侵害する物品」となってしまうのです。

 一方、 その商品のメーカー自身又はそのグループ企業に属する会社が日本における商標権者でもある場合には、 商標権侵害が問題とされる可能性はそれほど高くないと考えられます。 それは、 そのような場合には日本の消費者が並行輸入品の出所や品質について特に誤認をすることになるわけではなく、 商品の出所や品質を表示するという商標の本来的機能が害されるわけではないとの考え方が一般的になってきたからです。

 商標に関連する問題は奥が深いので、 今回はこの程度にして、 いずれまとめてご説明しましょう。

輸入規制に関する問題その他

 松尾さんは、 すでに相当シッパーとして事業をされていたようなので十分ご承知かと思われますが、 一定の物品は輸入貿易管理令などによって輸入が規制されていますから注意が必要です (たとえば、 ワシントン条約という条約で保護されている野生動物の加工品など)。 また、 物品によっては一定の基準や規格にあわないものは輸入してはいかんとされているものもあり、 また輸入、 販売行為を業としてやろうという場合には輸入販売業の許可を事前に取得しておく必要がある場合 (たとえば化粧品など) もありますから、 事前に十分確認しておくべきでしょう。

 それから、 輸入時の物品税であるとか関税であるとか、 保険料、 運送料その他を誰が負担するかなどについて、 お客さんと理解が異なってトラブルになったりしないように、 契約書のフォームとかは慎重に検討しておいてください (このへんの問題は「知的所有権」には関係はないですが、 取りあえず気になったので……ご参考まで)。

 さて、次は梶田さんのご質問です。


Q.

 internet、とくに WWW の特徴の一つに「情報の発信」があります。 これを選挙に利用する場合、 どのような問題点が考えられるでしょうか。

A.

 ネットワークかがどんどん進んでいけば、 確かにご質問のような問題が生じてきますよね。 ところで、 選挙活動に関しては公職選挙法という法律が「選挙が(中略)公明かつ適正に行われることを確保するため」 に色々と細かく規制しています。 そして、 現行の公職選挙法によるとネットワークを選挙活動に利用することはできないものと考えられます。

 しかし、「金のかからない選挙」を実現するためにネットワークを利用することを今後考えるべきだという提言もなされています。 たとえば、 郵政省が開催していた 「電子情報とネットワーク利用に関する調査研究会」 の平成6年7月の報告書においては 「公職選挙法の趣旨をふまえつつ、 選挙運動において、 パソコン通信を利用できるよう、 環境を整備することが必要である」と提唱されています。


 まだまだ、 いろいろなご質問を頂いておりますが、 今回はこの程度にして次回のお楽しみというこどで……

 皆様からのご質問をお待ちしております。


ネットワーク時代の知的所有権入門
ネットワーク知的所有権研究会
弁護士 宮下佳之