INTERNET MAGAZINE 1995.7 より、転載

ネットワーク時代の知的所有権入門
第5回
WWWについて…
あんなことや、こんなこと(その2)
−タレントの写真や楽曲の使用−

ネットワーク知的所有権研究会
弁護士 宮下佳之


 再びバトンタッチです。 今回は、terra が指摘した WWW の画面を巡る問題を、 具体的な例を挙げて考えて見ましょう。

その前に、まず自己紹介から

 さて、terra が自分の仕事の環境をばらすのを先例にしちゃったので、 私、ym も自分の貧弱な環境を開示せざるを得ないような雰囲気になってしまいました。 ym は、松倉氏や terra のような本格的ネットワーカーと言うには程遠いトーシローなのですが、 コンピュータソフトやマルチメディアタイトルがらみのライセンスやディストリビューションなどの契約をいろいろ作ったり、弁護士会や各種委員会、 研究会などで「マルチメディア」がなんたらかんたらとか「ネットワーク」がなんたらかんたらなどと、 偉そうな(?)ことを言っている、けしからん弁護士です(本当は、好きなプログラミングをしたり、ネットでネットワーカーのみんなとチャットしたりしたいんですが、 仕事に追われて、 ろくに週末も休めない哀れな弁護士なのです、と自己弁護)。

 ネットワークは、主としてニフティーサーブを使っていますが、 日本弁護士連合会という弁護士会の親玉みたいな団体のコンピュータ研究委員会という委員会の委員をしているので、 そこの委員会が運営している CC-NET というネットワークも利用しています。

 オフィスでは、今や時代遅れの DX2, 66MHz の IBM PS/55(バスが、 IBM 自身にも見放されつつあるマイクロチャンネルなので、 いずれ買い換えなければなりますまい)14,400bps モデム、 六連の CD-ROM チェンジャー、600dpi のプリンタなどをパーソナル用に使っています。 オフィスの他の弁護士や秘書とは、 一応、NetWare v3.11J でつながっています。

 それから、自宅用と出張用には、 プリンタ内臓型の Think Pad を使っています (ただし、先日出張に行ったときには Think Pad を持っていったばかりに徹夜で書類を作る羽目になってしまい、これからは持っていくのはやめようと思っていますが…)。

 と、このぐらいにして、早急本題に入りましょう。

 まずは、インターネットを知ってからまだ半年という学生の松田さんのご質問から (うむ、DJ の乗りですね。ここで、BGM が流れたりすると楽しいですが、 Printed material では難しい)。


Q.

 さて、私はあるタレントの大ファンで、 そのタレントの紹介とデータベースを兼ね備えたような WWW ページを作ろうと思い立ちました。 そこで問題となるのが、著作権や肖像権などです。 やはり、タレントの写真や CD などからとってきた楽曲などを無断で使用するとまずいのでしょうか?。 また、そのタレントのデビューから現在にいたるまでのありとあらゆるデータを取り揃えたいのですが、 芸能事務所はそういうことに積極的に協力してくれるものなのでしょうか?

A.

 なかなか面白そうな WWW ページができそうですね。 でも、残念ながらタレントの写真や CD からとってきた楽曲を無断で使用するのはまずいですね。 ちょっと、詳しくご説明しましょう。

「タレントの写真」には、どんな権利があるか?

 タレントの写真を勝手に使う場合、 その写真を撮った写真家の著作権と、 タレントの肖像権(この場合は、パブリシティ権という権利)との、 2つの権利の侵害が問題になります。

 まず、著作権について考えてみましょう。


写真の著作権

 terra が説明したように、 著作権法という法律によると、 「思想又は感情を創作的に表現したものであって、 文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」は、 「著作物」と定義されています。 そして、著作物を創作した「著作者」は、 「その著作物を複製する権利を専有する」と規定されていますから、 「著作者」の許諾を得ずに勝手に「著作物」を複製する行為は、 「原則として」その著作者の著作権を侵害する行為だ、 ということになってしまうのです。 そして、「写真」は「著作物」として例示されていますから、 たとえ芸術性はそれほど高くないものであっても、 タレントの写真を撮った写真家は、 その写真の著作者として「著作物」の複製をやめろという権利がある、と考えうるのです。

 「原則として」と言ったのは、前回 terra が指摘したように、 「公表された著作物」は、「公正な慣行に合致」し「引用の目的上正当な範囲で行われるもの」 であれば「引用して利用することができる」、 というような著作権の制限規定があるからです。

 しかし、ご質問のケースのように写真自体が鑑賞の対象となりうるような形で組み込まれる (多分そうですよね)のであれば、 上記の引用に関する制限規定が適用されると考えるのは無理がありそうです。

 制限規定には、「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的」とする場合は、 原則として、複製してもよいというような規定もありますが、 WWW ページを作ってみんなに見せようとするのは 「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的」 とするとは言えないでしょうから、 この規定を持ち出すのも無理がありますね。

 ところで、「複製」という概念は、じつは、 法的にはかなり難しい(というか、ケースによってはかなり議論のある)概念なのです。 その話をしだすと、とても今回だけで回答できなくなってしまうぐらい問題のある概念なのです。

 しかし、少なくとも WWW サーバーに記憶させる行為は、 いずれにせよ「複製」と考えられます。

 そこで、タレントの写真を使って WWW ページを作れば、 写真家の著作権のうち「複製権」という権利を侵害することになりかねないのです。

 著作者には、複製権のほかに「有線送信権」という権利も認められています。 「有線送信権」という権利は、大ざっぱに言うと、 不特定又は多数の人に直接、有線電気通信の送信をすることです。 WWW ページを作って、 不特定又は多数の人が著作物を見れる状態におくことを「送信」といっていいかどうか文言上は問題がないではありませんが、 現在の大方の考え方によると、 WWW ページなどを通じて不特定又は多数の人が、 直接、著作物を見れる状態におくことも「送信」に該当すると考えられているようです。

 したがって、ご質問のケースでは、 有線送信権の侵害の問題も生じることになります。


タレントのパブリシティー権

 「タレントの写真」については、 被写体であるタレントの権利も問題になります。 個人は誰でも「肖像権」という人格権をもっており、 自分の肖像を勝手に使われて人格が傷つけられれば、 文句を言うことができます。 そして、 タレントのようにその名前や肖像に経済的な価値がある人たちの場合には、 勝手にその名前や肖像が使われれば経済的な損失が生じる (すなわち、名前や肖像が利用される場合には、 ロイヤリティなどのお金がもらえるはずなのに、もらえなくなってしまう)ことから、 さらに一歩進んで、パブリシティ権という権利があると考えられています。 そして、勝手に肖像を使用されれば、やめろと言ったり、 損害賠償しろなどと言ったりできるのです。

 裁判所で問題になった有名なケースは 「おニャン子クラブ事件」と呼ばれるもので、 裁判所は「勝手におニャン子クラブに所属するタレントのプロマイドを販売する行為は、 パブリシティ権の侵害になる」と判断しました。

 したがって、ご質問のケースではタレントのパブリシティ権の侵害も問題になってしまうのです。


楽曲にはどんな権利があるか

 次に、楽曲を CD などから勝手に使用すれば、どうなるか考えてみましょう。

 楽曲は、一般的には歌詞(ない場合もありますが)と曲(旋律ですね)とによって構成されます。 そして楽曲は、一般的には、 音楽の著作物に該当すると考えられますから、 著作物たる楽曲を作った作詞家と作曲家は、 「著作者」として楽曲について「著作権」 (すでにお話しした、複製権とか有線送信権などの権利)を持つことになります。

 したがって、 これらの著作者の許諾を得ずにWWW ページ上で楽曲を利用すれば、 著作権侵害が問題となります。

 それだけではありません。 CD に楽曲を固定するためには、楽曲を演奏する人 (著作権法上は「実演家」と呼ばれます)と、 演奏された音を原盤 (CD を作る元になるマスターテープのこと)に固定する人 (著作権法上は、レコード製作者と呼ばれています)も必要ですが、 これらの人たちは著作隣接権という権利を持っていて 「勝手に自分の実演を録音するな」とか 「勝手にレコードをコピーするな」などと言えるのです。

 したがって、ご質問のケースでは、 これらの著作隣接権の侵害も問題となってしまいます。


じゃあ、どうする!?

 こうやって細かく見ていくと、 やたらいろいろな人の権利が問題になって、いやになってきますよね。 ざっと見た範囲でも、写真家の著作権、 タレントのパブリシティ権、 楽曲の作詞家と作曲家の著作権、 レコード製作者や実演家の著作隣接権などが問題となるわけです。 写真や楽曲も1つだけじゃ寂しいですから、 複数になれば、 それだけ問題となる権利者の数も多くなってくるわけです。 音楽関係の権利に関しては、JASRACなど権利処理団体があって、 利用したい場合はそこを通じてライセンスを受けることが多いのですが、 その話しは又別の機会にお話ししましょう。

 こんなに権利があると、じゃあ、 あまりに面倒くさいからあきらめよう、 という気になってくるかもしれませんが、 そうそう短絡的に考えるのはよくないですよね。

 面倒な権利処理のステップを踏むことによって、 アイデアも生かされ成果物の価値も高まるというもの。 まず、タレントの所属事務所を攻略して、 協力を取り付けることから考えたらどうでしょうか。

 いずれの権利も、 許諾さえあれば利用できるのですから、 問題となる写真や楽曲全てにかかわっているタレントの所属事務所の協力の下で関連する権利者の権利処理 (すなわち、利用許諾を得ること) を進めていけば、打開策も見いだせるかもしれません。

 これまでの常識的な考え方からすれば、 タレントの所属事務所にとって商売の種であるタレントの肖像や楽曲を金を払わない人に使わせるということは考えにくいことではありますが、 これだけインターネットの関心が高まっている状況の下では、 タレントの所属事務所としても宣伝効果をねらって協力してくれる可能性もあります。

 では、次の質問に移りましょう。 エレクトロニクス関係の会社に勤めているという小糸さんのご質問です。


Q.1

 WWW サーバーに Greeting Card のコーナーを設けて、 画像、動画、音声を含む年賀状を作成したとします。 これを、不特定多数の人が閲覧するわけですが、 作成者は知的所有権を主張できるのでしょうか? 名前のところだけ編集して、他人が使用してもよいのでしょうか?

A.1

 これまた、面白そうなアイディアですね。 結論としては「作成者」は知的所有権 (具体的には、著作権)を主張できるでしょうが、 WWW サーバーにアクセスした人に「勝手に使うな」と言えるかどうかについては、 疑問があります。

 ちょっと詳しく、ym の考え方を説明しましょう。


年賀状は「著作物」か

 前の質問のときに、「著作物」とはどういうものかをお話ししましたが、 ご質問の年賀状は作成者が相当工夫して作成したものでしょうから、 誰が作っても同じようになるとは考えられないですよね。

 その意味で、ご質問の年賀状は作成者の「思想又は感情」を「創作的に表現したもの」と考えられ、 著作物に該当するものと解されます。

 若干問題になるのは、年賀状に用いられた壁紙などのデザインが 「実用品の模様などとして用いられることのみを目的として製作されたもの」であって 「著作権法上の保護対象とならない」と考えられないかという点です。

 どういうことかというと、著作物かどうかを判断する際の考え方として、 「実用品の模様などのようなものは、本来、工業上利用することのできる意匠を保護する意匠法という法律によって保護されるべきであり、 著作権法上保護するのは適当でない」 という考え方があるからです。

 しかし、デザインの使用目的のような主観的な要素によって、 全く同じデザインが著作物となったり著作物ではないことになったりするのは変な話しなので、 ym としては、 上記のような考え方はあまり説得力がないように感じています。

 ところで、画像、動画、音声などは、 それ自体独立して著作物となりうるものですから、 ご質問の年賀状は、さまざまな形態の著作物を含むものと考えられそうです。 そして、年賀状を作成するということは、 素材である画像、動画、音声などを組合せて独立した作品を作り上げることを意味するわけですから、 年賀状は、画像、動画、音声などの素材とは別に、 著作物として保護されると考えられるでしょう。

 このことは、原作や音楽などの著作物を利用しながら、 映画という独立した著作物を作成することと同様です。

 ちまたでは、このようにいろいろな形態の著作物を統合したものを、 映画の著作物とは別に、「マルチメディア著作物」とか 「視聴覚著作物」と定義すべきだとか、 映画の著作物も含むより広い範囲の著作物として 「マルチメディア著作物」とか「視聴覚著作物」と定義すべきだなどというような議論が盛んですが、 名前はどうあれ、いずれにせよ素材とは別の著作物として保護されることは明らかです。


じゃあ、勝手に使っちゃだめなの?

 ご質問の年賀状が著作物であるとすると、 前のご質問のときにお話ししたように「勝手に複製するな」とか「勝手に有線送信するな」 などと言えるような気もします。 しかし、話しはそう単純ではなさそうです。

 なぜなら、インターネットという環境下で「みんな見てね」 と言って WWW サーバーに年賀状を載せるわけですから「これをダウンロードするのは、 複製権の侵害だ」などというのは自己矛盾じゃないかなという気がするからです。 法的には「年賀状は著作物であるが、その利用については黙示の許諾があるのではないか」 というような問題になるわけです。

 もっとも、WWW サーバーに載せられた年賀状を勝手にコピーして、 自分が作ったような顔をして販売したりするような行為まで許諾しているとは到底考えられないので、 黙示の許諾という考え方であらゆる利用形態が許されるというわけではありません。 (ちなみに、勝手に著作者以外の者が作ったような表示をすれば、 著作権とは別に、 著作者人格権という権利の侵害も問題になります。 この点については、次回にお話ししましょう)。

 要は、terra も言っていたように、 自分の権利を守るためにコピー禁止の警告もしないで、 後から文句を言うのは、 少なくてもインターネットというオープンな環境で情報の流通をしようとする以上、 問題ではないかということです。


おわりに

 ということで、この原稿の締切の日の真夜中となり、 ym はエネルギーを使い果たしてしまったので、 後は次回ということで…皆さんからのご質問をお待ちしております!!
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弁護士 宮下佳之