INTERNET MAGAZINE 1994.12 より、転載

ネットワーク時代の知的所有権入門
第1回
知的所有権って何だろう

ネットワーク知的所有権研究会
弁理士 松倉秀実



ちょっとした自己紹介

 今回から「知的所有権」について連載を始めることになりました。 この連載を担当するのは、 この分野に精通した若手の弁護士・弁理士で構成されたネットワーク知的所有権研究会です。

 さて、弁護士はみなさんよくご存じでしょうが、 弁理士という職業はあまり耳に馴染みがないのではないかと思いますので、 連載の開始にあたってちょっとだけ紹介をさせて下さい。

 弁理士は、後でお話します知的所有権の分野でも特に特許、 実用新案、意匠、商標の特許庁への出願代理が主な仕事です。技術内容を理解し、 その最適な保護が受けられるように明細書という書類を作成したり、 企業にアドバイスをしたりします。

 このように、技術と法律とが仕事の中心となりますので、 最近の高度な専門技術を必要とする知的所有権の訴訟等では弁護士とチームを組んで仕事を行うことが増えてきています。 そのようなわけで今回のこの連載もまず弁理士の私がトップバッターで担当させて頂くことになりました。


知的所有権って?

 通信分野の法律問題については、 パソコン通信でも既に著作権の問題や名誉毀損等が発生してきており、 NIFTY-Serveの法律フォーラム(FLAW)や生涯学習フォーラム(FLEARN)等でも盛んに議論がなされています。

 インターネットが普及して世界規模でのメールのやりとりやファイルのダウンロードが可能になると今までの各国の法律が予想していないような問題が起きてきそうです。

 特に、インターネットのようにホストが多数存在するネットワーク環境では前述のパソコン通信で議論されている問題のほかにもいろいろな法律問題が起こってくるでしょう。 インターネットにアクセスする私達も最低限どのようなことを守っていかなければならないのかを勉強する必要があります。

 ここでは知的所有権に話題を絞って考えてみましょう。

 さてそれでは、知的所有権とはいったい何を指すのでしょうか?

 を見て下さい。 知的所有権には大きく分けて著作権、特許権、実用新案権、意匠権、 商標権等があります。 この他にも不正競争防止法で保護される周知名称や商品形態等があります。

 さてこれらの権利は具体的にどのように違うのでしょうか?

 たとえば、対象は一つのプログラムであってもその保護の観点がそれぞれの法律によって違うのです。 たとえばプログラムの記述が表現であるというとらえ方をすれば著作権での保護が考えられますし、 これをシステム化した発明としてとらえれば特許権での保護が考えられます。 また、このプログラムに名前を付けて配布すれば商標の問題も生じてきます。


著作権について

 著作権として保護されるのは表現です。 ゴッホの描いた絵や、 森高千里の曲(個人的な趣味です(^_^))が伝統的に著作物として保護されることは当然ですよね。

 コンピューター分野については、 プログラムが著作物として著作権の保護対象になっています (著作権法2条1項10号)。


保護されるプログラムの種類

 さてそれでは著作権法で保護されるプログラムとは一体何を指すのでしょうか?

 ひとくちにプログラムといってもDOSの知識がある人がコマンドを並べて数行で記述するバッチファイルから、 C言語で何万ステップという膨大な量のワードプロセッサのプログラムまで多種多様です。 またゲームのプログラムからビジネスアプリケーションまでその用途も多様です。

 ここで、大切なのはどのようなプログラムにせよ、 著作物として保護されるには創作性が必要ということです。 この点についてプログラムは他の音楽や絵画等の伝統的な著作物に較べて実用的な性格をもっているので、 保護に値する創作性のレベルも高くなくてはいけないと考えられています。 現に日本の裁判例ではプログラムが保護を受けるための創作性をかなり高いレベルで要求しています。

 たとえば、プリンタの制御プログラムは創作性がないとしたり(システムサイエンス事件)、 ハードディスクへのアプリケーションのインストールを行うバッチファイルには創作性がないとして著作権侵害を否定した判決(IBF事件地裁判決)があります。 このことだけでバッチファイルは著作権では保護されないと断言はできません。 しかし、ある機能を実現するためにプログラマならば誰が記述しても同じような表現になってしまうようなものは、 どんなに苦労して作り上げたものであっても著作権法では保護されないとみるべきです。

 特定のアプリケーション上で機能する実行手順を列挙したマクロも、 前記のバッチファイルと同様に考えることができるでしょう。 しかし、最近のエディタやスプレッドシート用のマクロには多種類の条件分岐等の命令が用意されており、 一つの機能を実現するために様々な表現を選択できるものもありますれらは著作権法下での著作物として保護される可能性もあるでしょう。 一方、単なるキートレース機能で自動記述されるマクロや、 パソコン通信のマニュアル実行時に自動記述されていくマクロ等には創作性がなく著作物として保護されない可能性が高いでしょう。

 なお、ゲームのように画面に現れたキャラクタの動きに特徴のあるものはプログラムの中身とは別に画面の動きが映像の著作物として保護されます。


リバースエンジニアリングについて

 他人のプログラムを解析するリバースエンジニアリング(RE)については多くの議論があるところです。 日本では最近このREを許容する条文を著作権法に明記しようとする動きがありましたが、 米国等からの反対にあい結局明文化されませんでした。 しかしREに反対した米国でも、 ゲームマシンのインターフェースを調べてそのゲームマシンに適合したゲームを作成するために行ったREを一定条件で許容する判決が出ています(セガ V. アコレード事件、アタリ V. ニンテンドー事件)。

 結局REそのものが問題になるのではなく、 REの結果をどのように反映させるかが問題になるでしょう。 たとえば、REをインターフェースを一致させるためだけに用いて、 そこから新たに創作性を発揮して全く別のプログラムを作り上げた場合は問題がないでしょう。 一方、REを行ったオリジナルのソフトに似せたソフトを作り上げた場合にはオリジナルソフトの複製、 翻訳または翻案となる可能性があります。


データベースについて

 データベースも著作権法で保護されます(著作権法12条の2第1項)。 しかし全てのデータベースが著作物として保護されるわけではなく、 情報の選択的な体系や構成が創作性を有するものだけが保護されます。 わが国とは多少事情は違いますが、 米国ではABC順に名前を並べただけの電話帳は著作物として保護されないとした判決があります(ファイスト判決)。

 ところでデータベースは個々のデータの集まりでデータそのものにも著作権が発生している場合がありますし、 個々のデータは単なる事実の記述にすぎず著作権が発生していない場合もあります。 ネットワークでデータベースにアクセスして得られたデータをレポートとして外部に発表する場合に注意しなければいけないのは、 このような個々のデータに著作権が発生している場合、 データベースの著作権者から許諾をけるとともに個々のデータの著作権者からも許諾を得なければなりません。 たとえば俳句や歌詞のデータベースから特定のものをピックアップしてレポートを作成した場合等がこれにあたるでしょう。


プログラムの類似性

 プログラムが著作物として保護される場合、 自分のプログラムと他人のプログラムが似ているかどうかはその表現の仕方が問題になるわけです。

 他人のプログラムをデッドコピー(丸写し)した場合には勿論著作権侵害となりますが、 他人のプログラムの動作や画面インターフェースを似せて作ったプログラムであっても著作権侵害になる場合があります。 米国では先発のロータス1-2-3の画面構成や操作感覚を真似したとして後発の表計算ソフトに著作権侵害を認定したケースがあります。

 また、言語体系を書き換えたようなプログラム、 たとえばBASICで記述されたものをC言語に書き換えた場合については複製、 翻訳、翻案のいずれに該当するか専門家の間では議論がありますが、 いずれにしてもこれらの行為は原著作権者の権利範囲内となります。 したがって、言語を変更したプログラムには原著作権者の権利が及びますから許可を得なければ権利侵害となります。

 今回は著作権のほんのサワリ部分だけを中心に説明しましたが、 個別の話題はまた機会をみて詳細に説明します。 なお、次回はその他の知的所有権である特許、実用新案、意匠、商標等について解説する予定です。


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│        ┌─著作権(表現を保護)          │
│        ├─特許権(技術的なアイデアを保護)    │
│ 知的所有権──┼─実用新案権(技術的なアイデアを保護)  │
│        ├─意匠権(物品のデザインを保護)     │
│        ├─商標権(商品やサービスのマークを保護) │
│        └─その他(不正競争防止法など)      │
│                              │
│        ※同じ知的所有権でも保護の仕方が異なる   │
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